2010年3月19日金曜日

ソビエトロシアでは統計が打率を作り出す!:その3

「変異の凝集=四割打者が消える」ことが、なぜプレーの全般的向上につながるのか?
グルードは2つの理由を挙げている。

A:複雑なシステムは、最高の選手が同じルールで長期にわたってプレーすることで向上する。システムは向上するにつれて平衡状態へと向かい、変異は減少する

B:プレーが向上し、『釣鐘状分布』が<右の壁>(人間の限界)に向かって進むとき、変異は右裾で縮まねばならない

極限に近いレベルの勝負は、得てして凡戦に見える――北斗の拳のケンシロウで例えれば、ジードや牙一族との戦いでは実力差があるため派手な技がガンガン決まるものの、羅将ハンとの戦いではあまりにも速く拳を交わすため、素人目にはただ向かい合っているようにしか見えなくなるようなもの――ように、最高の選手が同じ土俵で長年に渡って戦えば、チームの勝率、打率、守備率とも高値安定で推移するということだ。

「平均的なプレーをする選手とグウィンの力量は、いつしか狭まっているため、必ずしも最適ではない選手よりも抜きん出る余地は、もうそれほど残されていない。現在は、全体の力量が向上しているせいで、大打者も昔に比べればヒットを一年に十本から十二本は損しているにちがいない。これは、現在の大打者を四割打者に押し上げるに十分なヒット数である」(154頁)

繰り返すように、競技レベルが向上して最高記録が<右の壁>に近づくと、記録の向上幅は横ばい状態に近づく。<右の壁>がある以上、人間は100mを5秒で走破することはできず、9秒台でジリジリと記録更新し続けることになる。

野球では、無失策率の推移にこの傾向が顕著にあらわれる。ナショナルリーグ全選手の無失策率は1870年代で.8872、1880年代で.9103、1890年代で.9347と飛躍的に向上しているが、1930年代に.9711と9割7分台に載せた後は、今日まで9割7分台で横ばい状態を続けている。

こうしたことを踏まえ、「プロ野球選手も他のスポーツ選手と同じようにレベルアップしているに違いない」ということを認めれば、グルードが提示した統計の真相が見えてくる。

つまり、打率は『釣鐘状分布』の変異全体のなかの構成要素に過ぎず、ここにきて四割打者が消滅したのは、プレー向上の結果であり、その証拠は変異の凝集という形で明確に示されている――という身も蓋もない結論だ。
(つづく)

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