2014年9月9日火曜日

今年観たドラマで一番のお気に入り『サン・オブ・アナーキー』を宣伝する

Huluのみの配信でDVDは海外版しかなく、かつDQN臭紛々なイメージボードにして、舞台が本邦とはまるで縁のないバイカー集団という、見る人を選び過ぎるほど選ぶドラマ『サン・オブ・アナーキー』(Sons of Anarchy。以下、SOA)。ググっても感想を書いているblogが1~2つくらいしかないほど不人気……というか、そもそも本邦において知名度が果てしなくゼロに近いドラマです(アメリカでは大人気でシーズン7まで製作決定)。

Huluについていえば、結構なヘビーユーザーであると自認している手前にして、↑のような先入観から、第1話を視聴するのに躊躇していたんですが、Huluでシーズン4を更新した際に何となくIMDBで出演者を見ていたら、ヒロインがマギー・シフ!!―― 『マッドメン』シーズン1でドンの浮気相手だったレイチェル・メンケンにして、女性の好みについて特殊な嗜好を持つ手前にとってどストライク(“秋の風物詩”の140km/hストレート以上にど真ん中)なルックスと空気感を持つ女優――であると知り、「これはヒロインを見るために視聴せにゃならん」(戸田奈津子風)と決心。即、マギーたんのヒロインっぷりを楽しむべく、布団と枕をイイ位置にセッティングして視聴したわけですよ。

で、見始めてみたら、これがもう本ッ当に素ン晴らしい。

食わず嫌いで見ていなかったことを恥じてしまうほど面白い。そりゃもちろん『ブレイキング・バッド』とか『ドクター・フー』みたいに、誰が観ても面白いドラマとは言いませんよ。でも、本邦において、このまま知名度ゼロで埋もれてしまうには、あまりにも勿体ないドラマだと思うので、以下、誰に頼まれたわけでもないけど宣伝します。

『SOA』とはどんなドラマなのか? シーズン4まで見終わった手前が定義づけるなら、「アメリカの西海岸を舞台とした、『仁義なき戦い・代理戦争』と『極道の女たち』を足して2で割ったような血みどろの群像劇」ってな感じになるでしょうか。

もう少し詳しく説明すると、『SOA』の舞台となるのは、カリフォルニア州にある架空の都市・チャーミングに本拠を置くバイカー集団『SOMCRO』(Sons of Anarchy Motorcycle Club, Redwood Original)です。バイカー集団とは、「革ジャンを着てハーレーに乗ってジャック・ダニエルズを回し飲みするようなアメリカ版珍走団」(=ヘルズ・エンジェルスみたいな集団)のこと。ただし、その実態はといえば、「ケンカといえば鉄パイプとチェーン」程度の珍走団みたいに大人しいものでは全然なくて、「ケンカといえばMP5とM4。あとC4も少々」という極めて物騒な暴力組織です。彼らのシノギは「銃の転売」。古くから懇意にしているIRA(アイルランド共和国軍)から武器を卸してもらい、これを黒人ギャングやチャイナマフィアに売りつけることで、日々の活動費を稼いでいます。

この『SOMCRO』の副総長を務めるのが主人公のジャックス。このジャックスを中心に、敵対組織や地元警察、ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)、連邦検事補などとの対立という縦軸と、義理の父と母、恋人と息子、『SOMCRO』メンバーとの人間関係という横軸の綴れ織りで展開するストーリー……というのが、基本的なハナシの構造です。

で、どんなハナシなのかといえば、製作者が語っているように、基本構想は「バイカー集団×ハムレット」というもの。ただし、ハムレット色が濃厚なのはシーズン1までで、シーズン2以降は、そこから大きく逸脱した過激な群像劇になります。

さて、ここで本題。このドラマの何が素晴らしいのかっていえば、一にも二にも脚本の出来です。ハナシの整合性やキャラクター造形の一貫性、練りこまれたセリフといった基本的なことはもちろんのこと、抗争における戦術とか、大仕掛けの罠とか、脅迫の仕方とかがね、実に良く考えられていて、本当に頭の良い脚本なんだ。

具体的にいえば、イケメンでケンカも強い副総長・ジャックスの描き方。彼は作中において最も頭の切れるキャラクターで、ATFや敵対組織の罠を看破しつつ、カウンターの策を仕掛けるという、諸葛孔明レベルの知略の持ち主として描かれています。

そう、ここでは簡単に諸葛孔明レベルの知略って書いているけど、これって文字にするのは簡単だけど、実際にドラマの中でこういうキャラクター描くためには、「脚本家が諸葛孔明レベルの知略」 すなわち知力100の脚本家じゃなければ描けないものです。

もちろん知力100ではなくても諸葛孔明レベルの知略を描くことは不可能じゃぁありませんよ。例えば知力65くらいの作家、脚本家ならば、「主人公の知力は65だけど、相手の知力を25くらいにする」という形……すなわち、相手を底なしのバカに設定すれば、主人公が相対的に優秀に見え、ひいては諸葛孔明レベルの知略があるようにも見えるという描き方もあります。

↑の手法で典型的な作品といえば『銀河英雄伝説』です。主要登場人物の作戦なり戦略なりは、冷静に考えてみれば全然大したものじゃないんだけど、その作戦なり戦略に相手がまんまと引っかかった結果、「奇術師ヤン」という伝説が生まれ、銀河の歴史がまた1ページ捲られていくという。といっても田中芳樹先生くらいに、読者に一切疑問を抱かせなほど物語に引きずり込む類まれな筆力があれば、↑の手法も上手くハマるわけですが、それでも再読すれば、「やっぱ相手がバカすぎじゃね」と思ってしまうのは否めないわけで……。

この点、『SOA』では、ジャックスのライバルであるATF捜査官のストール、連邦検事補のポッター、NORDOのソベルらの知力が90~80くらいはありそうなキレ者で、底なしのバカなんかじゃぁ全然ないんですよ。そんなキレ者の繰り出す策なものだから、基本的に頭の悪いジャックス以外の面々――古株で経理も得意なボビー(知力80前後)や総長のクレイ(知力60前後)以外は、全員低学歴なDQN(知力30~20くらい)――は、まんまと策に乗せられてしまうわけです。

しかも彼らが仕掛けてくる策というのが、実に周到でえげつない。本気で“殺しに来る”んですね。他のドラマとは違って、主人公達は実に容赦なく追い込まれます。たとえて言うなら、シーズン毎に「デボラに正体がバレたデクスター」クラスの窮地に追い込まれるということ。

追い込み方も本当にえげつなくて、結果、他のドラマでは絶対に死にそうにないキャラがバンバン死んでいきます。こいつは死なないだろうと確信できる(=主人公補正が掛かっている)のはメインキャストの3人くらい。全くもって気が抜けない。

で、シーズン通して混乱した事態を収拾しながら、時に味方を騙したり利用したりしつつ、シーズンラストでキッチリ反撃するジャックスがカッコイイ! カッコイイ!! カッコイイ!!! 本気で“殺しに来る”策を上回るカウンターを繰り出し、かつ、容赦なく追い込まれた状況をひっくり返す。そんな大逆転を「主人公補正」や「ご都合主義」をなるべく使わず――シーズン2の偽札やシーズン4のCIAは、一応伏線っぽいのはあったけど「ご都合主義」だわね――に実現するんだから、見終わった後に感じるカタルシスも超特大ってことです。

あと、ヒロインのマギー・シフが……とか書いていったら、本当にキリがないので、ここで強引に打ち止め。最後にシーズン4まで通して見た中で、一番のお気に入りのシーンはS2E7終盤の「ジャックスvsストール」 ここは普通に鳥肌が立ちましたよ。セリフも完璧、演技も完璧。なにより最後に脅迫されるストールの演技が凄い。文字通り一世一代のレベル。でね、このストールってのがね、本当に憎たらしく造形された素ン晴らしい仇役でさ……って、ダメだね。本当にキリがないね。

本当に最後に一言付け加えるなら、「『SOA』を見るためだけに1000円払う」価値は間違いなくある! ってこと。これだけは、2011年以来、200本以上の海外ドラマを観ている手前が太鼓判を押します。

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。