落合博満の選手生命を事実上奪った、96年の死球禍。中日のサウスポー・野口茂樹から喰らったものだ。
プロの一線級の投手が死球を与える場合、その多くは「すっぽ抜けを当てる」というものだ。すっぽ抜けは利き手側に球が抜けてしまうことで、右投手であれば右打者に、左投手であれば左打者に向かってすっぽ抜けた球が飛んでいく。これが打者にあたって死球となることが多い。
当時の野口はコントロールが悪いピッチャーだったので、左打者にすっぽ抜けを当てることは十分考えられた。が、右打者へのクロスファイヤーとなるストレートを当てるほど、コントロールが悪くはなかったとは断言できる。そこまでストライクが入らなければ、一軍に上がれるはずもないし、ノーヒットノーランもできなかったであろうからだ。
左投手が右打者に投げる場合は、内角のストライクゾーンに「打者という基準」を置くことができる。例えば、「内角高めならグリップエンド近くに投げる」「内角低めならヒザ近くに投げる」というように、目に見えるターゲットに向かって投げられるということ。しかも、仮に利き手の逆にすっぽ抜ける――右打者に向かってすっぽ抜ける――としても、多くの場合はワンバウンドになってしまう。つまり、すっぽ抜けが打者に当たる可能性はほとんどないため、より正確にコントロールできるということだ。
こうした事情を踏まえた上で、当時の映像を見てみると……。
【ニコニコ動画】落合博満 故意死球?事件 1996年(本編は5:00から)
……手前の一番穏当な感想としては、「少なくともコントロールミスではないようだね」というところ。当てられた落合は、このように語っている。
「ちょうどいい場面だよな。俺の前に松井が凡退して、あとは俺に打たれなきゃいいわけだから、ぶつけにくることもあるなと想定して打席に入ったんだよ。だから心持ち後ろに立ったんだ。でも、まさか本当に当たるとは思っていなかった。もうちょっと慎重になっていれば良かったな、と後で思った。そうすればぶつかっていなかった」
「打ちにいったんじゃないよ。打ちにいって(多少でも踏み込んで)いたら、頭か顔に当たっているんだ。~~中略~~(頭に当たって)蝶々が飛ぶより、指を1本折る方がずっとましでしょ」(『不敗人生~43歳からの挑戦』124頁)
*前掲動画の3:50近く(山本昌との対戦)では、いつものようにホームベースギリギリまで前に立っている。
当てに来るだろうけど、まさか頭へ一直線に来るとは思わなかった――と考えていたようだ。もし故意に当てるのであれば、肩や背中? くらいに思っていたのかもしれない。実際、“報復死球”(狙って当てる)の場合は、当てても深刻なケガにならない箇所に与えるのが“マナー”となっている(“報復死球”やその“マナー”は、プロ野球では「ないこと」になっているので、これらはあくまでも手前の経験則に基づいた見解だ)。
なぜ、今になってこんなことを書いているのか? といえば、つい先ごろ今中慎二の自伝『悔いは、あります。』(ザ・マサダ)を読んで、実に興味深いエピソードを見つけたからだ。
(つづく)
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