2016年2月26日金曜日

四の五の言わず読むべし『「地政学」は殺傷力のある武器である』

◆タイトル:「地政学」は殺傷力のある武器である
◆目次
・第1章 栄えている者はなぜ栄えたかを知りたい!
・第2章 マハンとセオドア・ローズヴェルトという史上最強のタッグ
・第3章 マッキンダーの地政学は何を語ったか?
・第4章 戦争と石油の地政学
・第5章 シナ大陸の地政学――マッキンダーの空白を補完する
・第6章 ドイツの地政学徒たちは何を言ったか?
・第7章 スパイクマンは何と言ったか?
・第8章 日本防衛の地政学

兵頭二十八師の新刊『「地政学」は殺傷力のある武器である』(徳間書店)を読みました。結論からいえば、「兵頭ファンなら絶対読め」「(手前にとっては)『新訳 戦争論』以来の大傑作」です。いやぁ、本当に面白かった。実際、本を開いてからは、2回のトイレと『午後の紅茶(無糖)』と『バンホーテン・チョコレート』を口にする以外は、ほぼ身じろぎすらせず最後まで読みきりましたからね。

どれくらい面白かったのか? といえば……ここにきて超面白くなってきた『タイラント』(マジでクーデターはどうなるの?)の最新話とか、先週Huluで配信が始まって以来、ハマりにハマってシーズン5を全借りした『キャッスル』(ベケットのデレっぷりとキャッスルの太りっぷりがヤバイ)とか、Steamセールで買って以来、ちょくちょくやり続けている『Cities:Skyline』(どうしても格子状の都市しか作れない!)みたいな誘惑があるなかで、こうした誘惑に人一倍弱く、かつ小学校の通信簿に「集中力に欠ける面があります」と書かれた手前にして、脇目を振らず一心不乱に読んでしまうだけの面白さがあった……ってことです。

その内容は、地政学の学術的な解説というよりは、「地政学に事寄せた、兵頭二十八の世界史」といった体の“歴史読み物”に近いといえましょう。といっても、単純な“歴史読み物”でもないんですね。「一冊一テーマ」を厳密に守ってきた、ここ数年の軍師の著作とは違って、初期兵頭本のような「一冊に雑多な内容が混在する」タイプに近い本だったりします。実際、第2章、第3章、第6章、第7章は、「人物評伝から始まって、戦史を軸に地政学の成り立ちを解説する歴史読み物」。第4章は、「石油争奪戦としての第二次大戦読み物」。第5章は、「遊牧民と農耕民の対立と融合という視点から見たシナの歴史読み物」。第8章は、「『日本の海軍兵備再考』のハイパーグレードアップ版」――といった感じです。

で、それぞれが面白いことは言うまでもないことなんですが、それ以上に嬉しいのが、「かつて発表した全ての所論を、大幅にアップグレードしている」ことです。それこそ「地理が政治を規定する」という兵頭流軍学の基本原理から、『ヤーボー丼』で示された河川交通を巡る所論、石炭と石油を巡る世界戦略のハナシや、「大日本帝国はこうやっていればバッドエンドにならなかった」のifなど、デビュー以来提唱してきた様々な所論を、地政学及び気候変動というフィルターを通してアップグレードしています。

加えて、これらの論がこれ以上ないくらいわかりやすく書かれているわけですよ。以下、一つ例を挙げてみましょう。

――フィッシャーは海軍部内の古手の反対者を追放して、戦艦のエンジンを蒸気ピストンではなく蒸気タービンとし、熱源も逐次に煉炭から重油化することとし、また主砲の口径を12インチに揃えて、その多数の巨弾の雨が一斉に遠くの狭い海面に落下することで高確率に敵艦をヒットすることを狙うなど、斬新なコンセプト満載の『ドレッドノート』型を密かに設計させて、14か月の突貫工事で1906年に初号艦を進水させました。――(124頁)

手前は、これ以上見事に要約された弩級戦艦の説明を読んだことがありません。このほかにも、「暑いと帝国ができやすく、寒いと都市ができやすい」(94頁。中見出し)などは、コロンブスの卵の極みですからね。いやもちろん、この見方自体が斬新ってことはありませんよ。気候と歴史を巡る様々な本で論じられてきたテーマですし。でも、ここまでわかりやすくバシッとフレーズ化できるのは軍師だけなんですね。

他にも書きたいことはいっぱいあるんですが、正直、頭がフットーしそうだよおっって具合なので、まとまりのないハナシを延々と書くのは止めておくことにします。古参の兵頭ファンほど面白く読めること必定なので、ファンを自任するのであれば、四の五の言わずにポチってください。

2016年2月15日月曜日

冬のあいだに観た海外ドラマの短評

観たけど覚えていないものも多数あり。『ザ・ラストシップ』とか『ヒーローズ・リボーン』とかね。あと、一応、採点の基準は以下の通り。

◎=誰が観てもおもしろい。もしくは個人的に年間ベスト級。
○=とてもおもしろい。もしくは個人的に年間ベストテン級。
△=まぁまぁ面白い。
×=面白くなかった。

・PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット(Person of Interest 。S4):○。エイミー・アッカーの七変化も良いし、サブで出てきたセラピストも良い。○評価の大部分は、女優陣のおかげ。もしかしたらジョナサン・ノーランと手前の女性の趣味は合致するところが多いのかもしれない。これまでの映画、ドラマでは見られなかったスマートな黒人ギャング(ITを駆使してNYを支配する)もフレッシュだし、これに対抗してマフィアのイライアスが反撃するプロットも見事。エアシューターを使ったアレには、「いやぁ、上手いナァ」と唸った。メインの展開は期待を裏切らず、予想通りに進むので、正直、驚きはなかった。ただ、演出が丁寧なので面白く見られるし、クライマックスもわかっちゃいるけど盛り上がった。

・ジェシカ・ジョーンズ(Jessica Jones。S1):○。良かった。主演2人は100点、雰囲気は90点、脚本は80点、ただしアクションは20点という感じ。正直、ジェシカのスーパーパワーを活かしていく展開を期待していたのだけど、ドラマでの描かれ方は、「ちょっと頑丈な力持ち」でしかないからなぁ。内容は完全に女主人公のノワール。ただ、これはこれで面白かったので、特に不満はない。

・SUITS/スーツ(Suits。S4):△。今シーズンも泥沼人間模様がメイン。しかもストーリーの流れは、近年のドラマのなかでも最も早い。ただし、法廷シーンがほとんどないので、展開自体は平板。実際、法廷シーンは罪状認否くらいで、陪審員を前に演説したり、証言するシーンはゼロ(証言録取はいっぱいある)。法廷外での戦いにおけるハメ方や裏技などのパターンも、S1~3までに出てきたモノの流用が多い。あと、これは個人的な好みなのだけど、マイクをあっさりと事務所に復帰させるのはいかがなものかと。クソビッチになったレイチェルに絶望し、正直者がバカを見て無職になったのだから、次の展開はどう考えたって『金色夜叉』しかないだろうよ。マイクvsハーヴィーの骨肉の戦い。見たかったナァ。

・私はラブ・リーガル(Drop Dead Diva 。S5):△。ここまで見て改めて実感したのが、初代守護天使の存在。あの軽薄さとロマンチシズムを絶妙にブレンドした役柄と、これを見事に成立させたベン・フェルドマン(『マッドメン』のマイクなど)の演技力があればこそ、ともすれば生々しくなりがちなストーリー展開への良いスパイスになっていたのだなぁ。あと残念だったのが、旧ジェーンと新ジェーンが法廷で対決しなかったこと。ベッタベタな展開だけど、旧ジェーンを出すのであれば、絶対に外してはいけない展開だったと思うのですよ。

・メンタリスト(The Mentalist。S6):△。S5までの面白さは雲散霧消。レッドジョンを巡る一連の動きに関するヒザかっくんな展開以上に、その後のFBI編の低調振りが残念。リグズビー、ヴァンペルトには大して興味がなかったけど、いざ、いなくなってみると味気なさが際立った。やっぱりオリジナルの5人がかもし出すケミストリーは確実にあったのだなぁ。

・スリーピー・ホロウ(Sleepy Hollow。S2):△。残念。モロクとの決着があまりにもあっさりし過ぎ。その後の親子・夫婦喧嘩展開は、そのロジックがあまりにもガバガバなので、全然乗ることができなかった。S1が本当に面白かっただけに、S2の失速には心底がっかりした。

・ナイトメア〜血塗られた秘密〜(Penny Dreadful。S1):×。S1Ep3で脱落。全巻レンタルして最後まで見なかったのは、たぶん、今回が初めて。ティモシー・ダルトン(俺の007)、エヴァ・グリーン(俺の嫁)が出てて、舞台が大好きな19世紀のロンドンなので、「たとえ中身が量産型スーパーナチュラルでも楽しめるはず!」と思っていたんだけどねぇ。

このほかに『ジ・アメリカンズ』(S1~2)、『マッドメン』(S6)を視聴。前者は近年稀にみる大傑作だったけど、後者は……。いずれにしても別のエントリで書くつもりです。