2014年5月23日金曜日

「レリゴー」が耳から離れない

というわけで遅ればせながら『アナと雪の女王』を見に行ったわけですが……一部には随分評判が悪いようだけど、これ、掛け値抜きの傑作じゃねぇか!

実のところ「レリゴー」とか「ありの~ままで~」とかいう歌についていえば、2カ月前から各所で耳にしていて、「あぁ、これが“アナ雪”ってやつなのね」と認識していたんですけどね。それでもまぁ、00年代においてピクサーの足元にも及ばない駄作ばかりを作り続けていたディズニーの映画ということで、映画館に行くどころかDVDが100円レンタルになっても観る気なんて一切なかったんですよ。

が、この2カ月余。たまたま入った日高屋とか本屋とかで流れてきたり、果ては病院の待合で親子連れが「レリゴー♪ ってか?」なんて会話をしているのを耳にするにつけ、「TVを見ず、世間の情報はYahoo! ニュースでしか得ていない手前にして、これだけ耳にしているということは、世間一般では大変なことになっているのでは?」と思い、一週間前にYouTubeとWikiで調べてみたんですよ。ええ。

そしたら「レリゴー」を歌っているのが、あのイディナ・メンゼル――『レント』のモーリーンで気になり、『魔法にかけられて』のナンシーでファンになり、後追いで『ウィケッド』のサントラを買って圧倒されて以来、熱心なファンを続けているミュージカル女優――で、主役の吹き替えがクリスティン・ベル――『ヴェロニカ・マーズ』、『ゴシップガール』のナレーションと、『バーレスク』でのカワイイ歌声(『Diamond is a Girls' Best Friends』のカバー。なおサントラには未収録。CDを買ってこれほどがっかりした経験は他にない)に魅了されて以来、熱心なファンを続けているテレビ出身女優――であると知ってしまい、「これは映画館で観ねばならぬ!」と決心。字幕版を掛けている最寄りの映画館を探し、時間をつくって、ついさっきようやく見てきたというわけです。

割引なしの1800円という価格は、貧乏な自営業である手前にとって大枚も大枚ですが、見終わっての感想はといえば、「無理して映画館で観て良かった」です。ミュージカル映画やCGバリバリのアクション映画&アニメ映画ってのは、デカい銀幕&最高の音響設備の下、フルHDより微細な映像と、ほとんど爆音に近いサウンドを一緒に味わってこそ価値のある映画である――というのが手前の持論なんですが、“アナ雪”は「CGバリバリのアニメミュージカル映画」ですからね。これ多分、自宅でDVDを見たとしたら、劇場で見た感動の1/100も味わえないと思いますですよ。

という感じで美点をあげつらっていったらキリがないので割愛。“アナ雪”サイコー! 的な感想はそこら中にあると思うので、それを参考にしてください。

ただ一ついいたいのは、「この映画は歌はいいけどストーリはダメだ。だから駄作だ」的な感想について。確かにおハナシは弱い。これは事実。でもね、そういう人に面と向かって言いたいのは、「貴方、ミュージカルに何を求めているの?」と。

……これねぇ、ストーリーのテコ入れは死ぬほど簡単なの。具体的にいえば、エルサを『Wicked』“西の悪い魔女”にすりゃいいの。で、「レリゴー」も『Defying Gravity』と同じように「もぉ~我慢するのはやめ。今度は戦争だ(エイリアン2©)」という位置づけにして中盤のクライマックスにもってくるようにするわけ。エルサと王国――映画にいた“越後屋”は削って“悪い大臣”を追加。当然、コイツが黒幕――が鋭く対立するなか、アナは両者の説得を試みるけど失敗。結局、悪の女王vs王国軍の決戦ってことになるのよ。矢弾と魔法が飛び交う決斗の最中、映画の終盤と同じようにアナがアレして両者は硬直。時間が止まったように見えるなかで、エルサがアナにアレして……

……みたいな“定番プロット”にしておけば、少なくともストーリーのアラが目立つってことにはならなかったはず。

それでですね、↑みたいなことは当然、ディズニーだって百も承知なわけですよ。そもそも脚本だけで10人近くクレジットされているんだから。少なくとも手前が数分で思いついたようなハナシよりも秀逸なアイディアが死ぬほど提示され、検討されてきたであろうことは間違いない! と断言できます。

それでもなお、お笑い芸人風情に指摘されるような大きな欠点を残したのかといえば、これはもう「ミュージカルとしての魅力の最大化を狙った」ためであって、定番ストーリーで得られるカタルシス以上に、歌と映像のコンビネーションで得られるカタルシスを重視した結果ってこと。つまるところ、「レリゴー」という“必殺技”の強みを最大限に活かした作りにしたってことであって、“アナ雪”=「レリゴー」のPVってことですよ。

で、普通なら「たかが劇中歌のPVで1800円も取るのか? ふざくんな!」ってことになるんだろうけど、「レリゴー」は明らかにただの劇中歌じゃないですからね。ミュージカルの曲としては『Sound of Music』以来の傑作だもの。このくらいの名曲――5~10年後には間違いなく英語or音楽の教科書に収録されるでしょう――だからこそ、敢えて“ビッグワンガム方式”(添え物であるオマケをメインにした商品構成)を採ったと。であればこそ、「レリゴー」を歌うのが“西の悪い魔女”では都合が悪いし、剣と魔法の戦闘的な血沸き肉踊るシーンがあると「レリゴー」の印象が薄くなるし……的な観点から、敢えてストーリーの穴には目を瞑ったんでしょう。で、他の劇中歌が形を変えて2回流れるなか、劇中で流す「レリゴー」も敢えて1回だけにして、ラストで下手くそな「レリゴー」を流すのも、「観客に物足りない思いをさせて、もう一回劇場に足を運んでもらう」という戦略の一環に間違いない(ちょっと陰謀論入ってますが、あながちウソとも思えない)。

だからねぇ、「“アナ雪”はストーリがクソ」とか「女子供やスイーツ向けのポルノだろ」とか「流行りモノに良いモノなし」みたいな偏見から映画館で観ずにいるのであれば、是非、↑のような偏見を取り除いて観に行ってもらいたいですね。いやホント、YouTubeやiTunesで観るのと、劇場で観るのとでは得られる感動or動かされる感情の質&量が全っ然違うから。

というわけでピーター・ジャクソン版『キングコング』(これも映画館で観ないと意味のない作品)以来、9年振りに映画をオススメするエントリでした。

追記:ここまで書いたついでで書くと、今日まで観た2014年上映作品のベスト1は『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』。近年のサスペンスアクション映画のなかでも屈指の作品だった。あと上映中、「いかにもロバート・レッドフォードがやりそうな役をロバート・レッドフォードに似た役者さんが演じているなぁ」と思いながら見てたんだけど、最後のクレジットで「As Alexander Pierce/Robert Redford」と出たときには、大げさでなく椅子からずり落ちそうになった。