2010年4月13日火曜日

小笠原道大、「魂のフルスイング」

今のプロ野球の世界で、掛値なくプロと呼べる数少ない選手の一人が小笠原道大選手だろう。毎年コンスタントに「3割30本80~100打点」という成績を上げるのは至難の業だ。実際、近年ではロッテ~中日時代の落合博満くらいしか成功していない。当時よりも動作・データ分析が進展した現在において、これだけの成績を上げ続けるということは、文字通り超人的なもの。文句なしに「国内最高のバットマン」だろう。

これだけの実績を残せる秘訣はどこにあるのか? 口数が少ない小笠原選手が唯一上梓した著書『魂のフルスイング』(KKロングセラーズ)から探ってみたい。

といっても、同著に技術的な話は一切書かれていない。あえて一つだけ挙げるなら以下の一文だろう。

「加藤コーチはあれやこれやといろいろアドバイスするわけではなかった。口を酸っぱくして僕に言った打撃の本質はたった一つ。『コンパクトに、そしてしっかりと最後まで振れ』」(134頁)

超一流のスラッガーに共通する答えだ。トップの位置を目一杯深くし、腕を伸ばして思い切り振る“ドアスイング”ではなく、トップの位置を深く取りながらも、スイングに当たってはしっかりヒジをたたみ、フォロースルーまで最短距離で振りぬく――いわゆる日本野球における古典的な“正しいスイング”のことだ。実際、これを忠実に守り抜いてフルスイングを繰り返した結果、現役13年の通算打率で0317を残す一方、被三振率は.177に止めている(スラッガーの被三振率は2割を切れば優秀とされる。典型的なスラッガーのアレックス・ロドリゲス選手は.209。三振の多かった清原和博は.255となっている)。

ちなみに、小笠原選手と同じように三振の少なかったスラッガーであった落合博満の通算被三振率は.149。個性的な打撃フォームであるところも共通点がある。

「僕の打ち方は、小さい野球少年にはあまりお勧めしない。それはヒルマン監督も『見習ってほしくない代表格』と語っているとおりだ。なぜかというと、僕のは基本がしっかりあって、体ができ上がっているからこそのバッティングフォームなのだ。それが、まだ体が小さくてバットを振るというよりバットに振り回されているようなちびっ子がこのうち方をしても上達するのは難しいだろう」(168頁)

と、「良い子がマネしちゃいけない手本」であることも一緒だ。

このように技術的な話が一切書かれていない同著は、典型的な「野球選手の自伝本」(オレさま語り)であり、正直、読んで面白いものではない。しかし、この面白くないことこそが、小笠原選手がプロ中のプロであることを証明しているといっていい。

現役引退して二度と真剣勝負をしないのであれば、自分の持つ技術、思考をつまびらかにしてもいいが、プロとして最高の成績を上げ続けるためには、ほんの少しでもライバルにヒントを与えないという心構えが必要となる。例えば、「自分のバッティングは軸足のタメがキーポイント」みたいなことを書いたとする。これを読んだ同一リーグの投手が、選手のクセやフォームから苦手なコース、ボールを探り、次の対戦で万全の対策を取って向かってきた――。こうした事態を避けるために、自分の情報を統制する必要があるということだ。

実際、小笠原選手はヒーローインタビューやホームラン後の談話でも、「打った球は覚えていない」「タイミング良く打てた」くらいのことしか言わない。他の選手のように、「スライダーを完璧に捉えた」みたいなことはほとんど口にしないし、ベースランニングの途中でガッツポーズもしない。いずれも次の対戦で「万全の対策を取らせない」「相手の闘志をいたずらにかきたたせない」ための用心だ。

どんな小さなリスクであっても最大限に注意しなければ、足をすくわれてしまう可能性があるということを身に沁みてわかっているのだろう。だからこそチームのムードや試合の流れに惑わされず、自分の仕事を着々とこなすことができ、毎年ハイレベルな実績を残せるのではないだろうか。

第1回WBCの回想やレギュラー獲得までの道程など、そこそこ興味深い内容もあるが、ファン以外には読みすすめるのがツラい内容であることは否定のしようもない。ただ、発刊から3年経って読み返すと、いろいろと新たな発見がある。

トレイ・ヒルマンが監督に就任して、ファーストからサードへのコンバートを通達されたときのことを回想して、

「僕は決して器用なほうではないだけに、新しいことにチャレンジするのは大きな刺激にもなる。だから、自分の可能性を広げられるチャンスを逃してなるものかという意欲を持って取り組んだ」(162頁)

と語っている部分や、

「青天のへきれき、新天地札幌……。タイミングの悪いことに、そのことが明るみに出たのは僕らが賃貸マンションを出て自宅を建てることを決め、手頃な土地を見つけて地鎮祭を行なうわずか三日前の出来事だった。~~中略~~移転がもう半年でも早くわかっていれば、また違った選択があっただろう」(158~159頁)

と札幌移転の直前に千葉に自宅を建てることを明かしていたりする部分も、「なるほど、この年のオフに出て行くことをこうやって暗示していたのだな」と深読みできたりする。

追記:この本を読んでいてフト思ったんだけど、プロ野球選手として大成するためには、年上の嫁を貰うことも一つの条件なのかなぁ。もっともサンプルが少ないので何ともいえないけど。

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