テッド・ウィリアムズが1941年に記録して以降、なぜ、メジャーリーグから四割打者が消えたのか? これを14年前に解き明かしたスティーヴン・ジェイ・グールドの『フルハウス 生命の全容―四割打者の絶滅と進化の逆説』について書いてみたいと思います。
四割打者が消えた理由については、過去多くのOB、選手、、ファンや解説者が様々な説を唱えてきた。これらの説をまとめると、大きく3つに分類できる。
・投球技術の向上:球種の増加。先発完投体制からリリーフ分業体制への移行など
・守備力の向上:グラブの進化。連係プレーの確立など
・管理面の向上:野球理論の高度化。配球、動作解析など
それぞれのテーマで一冊の本になるほどの理由があるが、突き詰めると、「プレー内容が変化して打撃が難しくなった結果、四割打者が消えた」となる。ただし、これらの理由が成立するためには、一つ重要なファクターがある。
「このあいだ打撃技術が一切向上しない」ということだ。
投球、守備、管理面での進歩があって、なぜ、打撃にだけ進歩がないといえるのか? 投手のクセ盗み、配給を読む技術が磨かれ、飛ぶボールが使われ、バッティングマシーンで思う存分練習できる――といったことを考慮すると、従来の説(プレー内容の変化)は説得力に乏しいといわざるを得ない。
こうした前提からグルードは、四割打者が消えたのは「プレー内容の変化が理由ではない」と決め打ち、統計の変化から真相を探るアプローチをかけてみた。
統計のベースとなるのは全選手の打率を記録したグラフだ。
縦軸を「一定打率を記録した人数」、横軸を「記録した打率」というグラフに、全選手の打率を当てはめてみると、低い打率が少数で左裾を形作り、平均的な打率が中央を厚く固め、高い打率が少数で右裾を形作る『釣鐘状分布』となる。打率1割台の人は少なく、2割6分台の人は多く、4割台の人は少なくなるという“釣鐘”ができるということ。この場合、四割打者は「全選手の打率を集めた完全な分布の右裾」となる(あえてハナシを簡略化しています)。
そのうえでグルードは、「四割打者が消滅したのは、一定を維持する平均値の周りに変異が凝縮した結果ではないか?」という仮説を立てる。『釣鐘状分布』は、変異の増減に応じて拡大したり縮小したりすることから、「変異(平均打率)が凝集(各選手の打率が中央値に近づく)すれば、左裾も右裾も縮まる。つまり、四割打者が消滅する」という理屈だ(念のために言いますが、これも物凄くハナシを端折っています)。
グルードが最初に検証したのは、各年の打率「ベスト5」と「ワースト5」の平均打率。ベスト打率、ワースト打率と平均打率との差が、年を追うごとに縮まっていれば、変異が凝集したことが証明される。
結果はどうだったのか?
「1880年代から1940年代にかけて大幅に差が凝集し」、「1940年代以降は横ばいに近い状態で凝集する」というものだった。つまり、変異の凝集が証明されたわけだ。
(つづく)
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