2010年3月2日火曜日

『街場の中国論』に一言以上いいたい:その1

『日本辺境論』がとても面白かったので、友人に『街場の中国論』を借りて読んだんだけど……。いろんな意味で読み応えのある本ですた。で、いいたいことが山ほどあるので、考えがまとまってないけど、とりあえず思いついたことを書いてみることにしますよ。

冒頭から数ページはいい具合なんですよ。

「ナショナリストというのは『自国の国益が損なわれることを喜ぶ』倒錯した傾向がある」
→これはその通り。加えて“バカ右翼”は下品だから嫌いです。

「『同族』だからこそ、隣国の愛国者たちが何を考えているか手に取るようによくわかる(と思っている)。~~中略~~日本が弱腰になったら、『あんなこと』や『こんなこと』を要求するに決まっている。それは想像がつく。だって、それは、向こうが弱腰になったときにまさに『オレが要求するつもりでいること』なんですから」
→なるほど鋭い指摘。ここらへんは感服。

という感じで、『日本辺境論』と同じように粗雑な議論だけど指摘は鋭い。でも、経済話が出てくるあたりから、内容がかなり怪しくなってくる。

「現在、中国は八パーセントから一〇パーセントという驚異的な経済成長率を継続しています。~~中略~~人口の二〇%程度が今、中産階級だと言われています」

中国経済の話、とりわけGDPの伸び率を始めとする統計がデタラメなんてことは、誰でも知ってることでしょう? 

・粗鋼生産量は02年1.8億tから08年5.7億tと急成長しているけど、まず、どこにそれだけの大規模製鉄所があるの? 世界最大の高炉って日本だよね? 人民網日本語版によると「国内市場での粗鋼消費量は5億6500万トン」っていうけど、これって日本の5倍以上でしょう? どこにそんなに工業製品があるの? 一部で弥生時代とさえ言われている中国内陸部も未来都市みたいになってんの?

・中国の自動車産業が凄い。モーターショーも東京から上海へ! というけど、米国や欧州で中国の自動車メーカーの車は何台走ってんの? 少なくとも日本で見たことないけど。中国国内には走ってるって? だったら旧正月の帰省ラッシュではなぜ鉄道だけが大混雑で、日本みたいに道路の渋滞が話題にならないの? そもそも沿岸部と農村部を結ぶ高速道路があるの?

って具合に、いくらでも怪しい話がある。この辺の怪しい話を前提にどんどん議論を進めていくので、正直、ちょっとついていけなくなってくる。

でも、そこら辺をこらえて読み進めていくと、オッと思えてくる指摘があったりするのが、この本のやっかいだけど面白いところで……。

「中国がとりあえず実効的に統治されているということから、世界の多くの国は損失よりも多くの利益を得ていると考えています」
「排外主義的なイデオロギーが中国国内に瀰漫するということがあったとしても、中国のガバナンスが崩壊して武装蜂起や内戦が起きたり、飢えた民衆がボートピープル化して隣国に流入するというような事態がそれで防げるなら、日本としては帳尻があうだろうと思います。
→これは正しい指摘。ただ、「言うこと聞かないと、内戦おきるかも知れないぞ! いいのか?」って脅しに屈すること(中曽根みたいな態度をとること)は別の話だと思うけど。

「日本に対しては中国の側に、日本を批判することには心理的な抑圧が働いていない」
→これも正しい指摘。ただ、手前に言わせれば、「華夷秩序における末っ子が親に歯向かったんだから、膺懲するのは当然だ」という意識があるからとなる。この方が「共記憶」とかあやしい言葉を使わなくてもスッキリ説明できると思うんだけど。

で、「儒教圏」の成立――日本、朝鮮、中国の連合ってことで、仏教圏のタイ、キリスト教圏のフィリピン、イスラム教圏のインドネシアなどは含まないって事か?――の可能性と期待について滔々と語っているわけですが……。

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