工藤公康投手といえば、いわずと知れた現役最年長プロ野球選手だ。何の変哲もない背番号47を、自らの腕一つで「サウスポーの代名詞」にまで高めた伝説の男――なのだが、手前にとっての工藤公康投手は、「ファミスタのキャラで唯一の現役選手」だ。生ける伝説というよりは、「わたなへ」と「かく」を繋ぐ中継ぎとしてフル回転していた親しみやすいキャラクターという印象が先に来る。
そんな工藤投手の著作は、現役最年長だけに数多くあるが、一番読み応えがあるのは『47番の投球論』(ベスト新書)だろう。
タイトル通り投球術について多く取り上げている同書。「人間の投げ方には2種類しかない」「ステップは4種類」など、投球に対する持論も面白いが、一番の読みどころは第3章(僕の配球論~打者を見る『眼』)だ。
・(配球のうえで)最も大切なのはバッターの性格
・困ったときの外角低めは、現在では有効性に乏しい
・キーを作ってはならない
・消せる球、消される球
「(昔は「困ったときの外角低め」で窮地を乗り切れることも少なくなかったが)もう時代はそうはいかなくなりました。先にも触れましたが、一番の大きな理由は“飛ぶボール”や改良が加えられた“飛ばすバット”による「ピッチャー受難の時代」だからです」(84頁)
「(内角を見せて外角で打ち取るという配球がまかり通っていた時代もあったが)そんな配球はバッターにはお見通しで、完全に読みきられてしまっているわけです~~中略~~いまや種が明かされてしまった手品のような状態にあり、そうなってしまった以上、配球としては有効性に乏しいということです(85~86頁)」
「たとえばフォークボールを勝負球にしているピッチャーが陥りやすい攻め方ですが、カウントが2-1や2-2からフォークを投げて空振りの三振か引っ掛けさせて内野ゴロを意図した配球があります。しかし、もうほとんどのバッターはその手にのせられて振ってはきません。その攻め方が“キー”だからです」(87頁)
長いプロ生活で培った経験から導き出されること、そして何より現在のプロ野球の最前線で戦っているからこそわかること――とくに「困ったときの外角低め」というセオリーを理詰めで否定している点――をベースに論じられた配球論は、古臭いOBの自慢話とは一味も二味も違う深さがある。
99年の日本シリーズ(ダイエーvs中日)での関川、ゴメス、立浪との対戦を例に配球を語る下りは、単純に読み物としても無類の面白さだ(城島選手がどうやって成長していったのかも良く分かる)。
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