2010年2月7日日曜日

90年代最高のセカンド、辻発彦

「辻は捕ってからが早いんだ」とは、とんねるずの石橋貴明の言葉。辻って誰かって? 常勝西武のセカンドの辻発彦(西武→ヤクルト)に決まってるじゃないですか! 現在、中日ドラゴンズの総合コーチを務めている辻が引退後に上梓したのが『プロ野球 勝つための頭脳プレー』(青春出版社)。BIG tomorrowの出版社だけに、アオリが無駄に派手――「野球通も脱帽!」「その一球のウラに何が隠されているのか!」……etc――だったりするんだけど、その内容はアオリ以上に素晴らしく充実している。

プロ野球選手が引退直後に出す本は、一般に自伝(というかオレさま語り)的内容が大部分を占めていて、その選手のファンでなければそれほど面白いものではない。が、同著は全219頁のうち自伝は終章の22頁に過ぎず、それ以外のほとんどはプレイ解説に当てられている。その解説の面白さたるや……中見出しからシビレるフレーズを列挙してみると、

・“野球のセオリー”――この言葉の真の意味
・ひとつ先のアクシデントまで「予測」したプレー
・速球派に対して、僕があえてバットを長く持った理由
・一瞬の隙をつくプレーの裏にある「膨大な時間」
・状況によって、グラブのどの部分で捕るかも変える

この全てについて、自らの経験に裏打ちされた確かな理屈があますところなく紹介されている。

「タッチプレイのときは敢えてグラブの網の部分で捕る」
「セットポジションに入ったらどこが最初に動くか? このクセがわかれば投手が足の向きを変える前に投球か牽制かがわかる」
「力投型には、投球後に体制が崩れる投手が多いので、バットをやや長めに持ちヘッドをぶつける感じで投手の足元を狙った」

こんな解説が特盛で盛り込まれているんだから、野球ファンであれば読んで面白くないわけがない。一読したら必ず薀蓄として使いたくなるはずだ。

さて、辻といえば華麗かつ堅実なセカンド守備ばかりが注目されがちだが、実のところバッティングも素晴らしかった。西武時代に首位打者を獲り、晩年のヤクルト時代にも.333を記録している。そんな辻の打撃論はどのようなものか?

バッティングに当たって辻が最も注意していたポイントは、足を上げてタイミングを取る際の「軸足の壁」だったという。

「左足を上げて軸足に引きつけるときには、どうしても右足がグラグラしやすい。重心を右足に移しながら一本足で支えるため、安定がなくなり、キャッチャー側に体が流れてしまう」(109頁。都築による要約)
「膝がこれ以上キャッチャー寄りに流れないように、置いた右足のつま先を外側(キャッチャー寄り)にグッと力を入れておいて、内側に絞るのだ。こうすると、右足にいくら重心をかけても膝は崩れない」(109~110頁)
「この構えができていると、ピッチャー側からは、右膝から足のつけ根にかけてユニホームがねじれて見える。~~中略~~フォームをチェックするときは、このユニホームのズボンがねじれているか、ゆるんでいるかを見ていた」(110頁)

正直いってバッティングにはそれほど細かいほうではなかった――という辻にして、ここまで拘っていたのだ。

辻といえば「右打ちの名手」「ファール打ちの名人」――いまで言えば中日の井端弘和選手のようなバッティング――と称されていたが、当人に言わせれば、「ファールになっちゃったというか、上手くファールにすることができた」という感覚に近いという。140km/hを超えるボールを「ちょっとカットしよう」くらいの意識から小手先で当てにいったのでは、ヘッドが返ってしまい、ボテボテのピッチャーゴロになるとのこと。

であれば、「ここは上手くカットしましたね~」とかしたり顔で言っている解説者(例えば中畑とか中畑とか中畑とか)は、どんだけ凄いバッティング技術を持っていたんでしょうかね?


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