2010年2月17日水曜日

昔の野球はレベルが高かった? 青田昇:その1

「いまの選手はひ弱だ」
「昔はもっと投げ込んだものだ」
「中4日で文句言うな。昔は毎日投げていた」

古株のOBがよく言うセリフだ。この手の話をことあるごとに披露するOBの、代表的な存在が青田昇だった。青田の著書『サムライ達のプロ野球』は、自らがサムライと認める伝説的OB――沢村栄治から長嶋茂雄までの23人――の凄さを書き綴った本だ。

角三男や西本聖らが精一杯投じたストレートのスピード(135km/hくらい)や、ブーマー、ホーナーに比べて余りに貧相な他の日本人4番打者の体格などをリアルタイムで見てきた手前としては、「いや、いまの野球は昔に比べて遥かにレベルが高いでしょ」と言いたくなるのだが、青田に言わせれば「昔のことを見たこともないくせに、あまり調子のいいことをいってもらいたくない」という。

「体格の数字を見ると問題にならない。昔、沢村栄治さんが176センチあった。これは大きいほうだ。~~中略~~いま、巨人でチビといわれる緒方や川相ですら175センチである」
「これだけ体格が向上したのだから、スピードやパワーもさぞかし増強したかと思えば、さにあらずだ」(17~18頁)

としたうえで、スピードと肩の力(遠投距離)から「昔の方がレベルが高かった」と主張している。

・昔のスピード:広瀬習一が100mを10秒5、呉昌征が10秒6、中島治康が11秒2で走っており、多くの選手が11秒前半で走っていた。
・今のスピード:11秒前半で走れるのは1チームに1人か2人くらいしかいない。

・昔のパワー:球団対抗の遠投競争の予選通過ラインは115m。南海の国久松一は127mも投げた。115mオーバーの選手はゴロゴロいた。
・今のパワー:90m、100m投げるのにフワフワしている。

この辺の数字の信憑性については、正直、眉唾な気がしないでもない。ドラフト候補を持ち上げるマスコミ報道――「50m●秒の俊足」とか「150km/h超の本格派」など――に近い性質のものではないだろうか。あれほど当てにならないものはない。

シャープなバッティングは「飛ばない」。打たせてとるタイプは「三振がとれない」。三拍子揃った逸材は「長所がない」……。これは手前の経験則だが、50m●秒は大体0.5秒くらい水増し、遠投●mも20mくらい水増ししている。

もちろんドラフト候補のマスコミ報道と、青田の証言を一緒くたにはできない。しかし、陸上短距離や水泳などの世界記録の変遷を考えると、過去と現在で選手の運動能力に格段の差があったとは思えない。ただ、技術面を見ると、ピッチングマシンの登場によるバッティング技術の向上は確実にあったのではないだろうか。

例えば昨年のセリーグ打撃成績を見ると、3割バッターは首位打者のラミレス選手(打率.322)を筆頭に、内川聖一選手、小笠原道大選手、坂本勇一選手、井端弘和選手、青木宣親選手、和田一浩選手の7人となっている。成績10位の阿部慎之介選手の打率は.293、同20位の金本知憲選手の打率は.261だ。

これが50年前になるとどうなるか? 

1959年のセリーグ打撃成績を見ると、3割バッターは首位打者の長島茂雄(打率.334)しかいない。2位は飯田徳治で.296なのだ。成績10位の吉田義男の打率は.272、同20位の岡島博治は.243に止まっている。翌1960年を見ると3割バッターは5人となるが、成績10位の王貞治は.270、同じく20位の町田行彦は.238となっている。

つまり、過去と現在のバッティング技術については、「トップ選手は変わらないかも知れないが、それ以外の一流~準一流選手の技術は打率にして2分程度向上している」ということだ。

これをピッチャーサイドから見れば、「昔はクリンアップだけに全力投球していれば良かったけど、今は1~8番まで気が抜けない」となる。実際、クルーン投手の162km/hのストレートを日高剛選手がスタンドに叩き込むくらいには、レベルアップしているということだ。

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