2011年7月21日木曜日

落×駒:“駒田打法”はバイブルになり得るか?

*以下、特に断りがない場合は、駒田徳広の言葉は『問いただす“間違いだらけ”の打撃指導』(ベースボール・マガジン社)』、落合博満の言葉は『落合博満の超野球学・バッティングの理屈①』(ベースボール・マガジン社)からの引用です。なお、上記書籍からの引用部分の末尾には(駒・●頁)、(落・●頁)と表記します。

駒田が横浜ベイスターズに在籍した当時、監督をしていた権藤博はこのように語っていたといいます。

「試合前のミーティングで、バッターにスライダーやチェンジアップを引きつけて打つように指示すると、たいてい打てないな。5回を終わって2安打くらいの完封ペースになっている。だから、言うんだよ。泳いでもいい、ファウルになってもいい。とにかく打ちに行け。ピッチャーは前に出て、打ちに来られるほうが嫌なんだから。同じアウトローのボールでも、バッターが引きつけて打とうとするのと、前に出て打ちにきているときでは、投げる側のストライクゾーンの見え方が違うんだ。打ちに来られると、ピッチャーは怖くなって、どうしても外のボールゾーンに投げることになってしまう」
(駒・32頁)

すなわち、本の帯にある「『引きつけて打て』が投手を有利にする」ということです。これを克服するために権藤は、引きつけて打とうとするバッターに下半身も積極的に前へ体重移動して打て(=「バンカーショットになっているぞ。せめて3番アイアンくらいで打て」)とハッパをかけていたそうです。実際、このような権藤の方針があったためか、90年代末期の横浜ベイスターズは<マシンガン打線>を売りに快進撃。99年のチーム通算打率は.294とセリーグ最高記録をするほど打ちまくりました。

こうして見ると、駒田の提唱する打法は素晴らしいようにも思えます。しかし、「バッティングに正解はない」という言葉通り、この打ち方にもデメリットはあります。

その際たるものは、何度も繰り返すように「長打を量産できない」ことです。99年のマシンガン打線は文字通りセリーグ最高の打率を叩きだしましたが、反面、シーズン通算ホームラン数は140本と控えめな数字でした(37本打ったロバート・ローズ以外に20本以上打った選手は一人もいなかった)。このことからも、駒田の提唱する打法がヒットを量産するために特化したものであって、長打を狙う打者にとっては最適化された打法とは言い難い――ということはいえるかと思います。

また、前回左打者に向いた打法とも書きましたが、駒田の主張とは正反対の「引きつけて打て」がウリの金森栄治コーチの愛弟子で頭角を現している選手の多くが右打者(アレックス・カブレラ選手、和田一浩選手、井口資仁選手、城島健司選手etc)だったりします。

このことからも――

・「引きつけて打つ」打ち方が右打者にとって有効である可能性が高い
・「引きつけて打つ」打ち方が左打者にとっては右打者ほど顕著な効果がないと考えられる

――といえるのでしょう。さらにいえば、「引きつけて打つ」打ち方で芽の出ない左打者であれば、駒田が提唱する打法を取り入れることで“化ける”可能性もあるということです。実際、イチロー選手や坪井智哉選手、なにより駒田自身が2000本安打を打つほど成功したのですから、ヒットを量産できる打ち方ではあるわけです。

というわけで、本エントリのタイトルの問いかけには、「左打ちで積極的に長打を狙わないバッター限定」でバイブルになり得る、と答えられるのではないでしょうか。

追記:書いている途中に思いついたので一言。駒田は権藤の言葉を借りて、自身の提唱する「前へ体重移動する打ち方」は「下半身も連動する打ち方」であって、「引きつけて軸足で打つ打ち方」は「下半身を連動しない打ち方」であることを言外に匂わせています。しかし、<金森打法>も落合が禁忌とする「前方へのスウェー」にしても、スイングの際に下半身を連動させることは大前提としてあり、その理屈も理に適っているものです(スペースが足りないので詳細は省きます)。よって、もし駒田がこのような認識を持っているとすれば、「それは誤りに近いのでは?」と思います。

落合博満の超野球学〈1〉バッティングの理屈(注:Amazonリンク)

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