7月になったので上半期を振り返ってみたいと思います。「今年発売」じゃなくて「今年読んだ」というところに注意してください。
というわけで、早速発表。
★第五位:電撃戦という幻・上下(中央公論新社)
◆読書メーターの感想(上巻):これは名著でしょう。「そもそも電撃戦なんて一切計画してなかった」という“事実”をキッチリと検証していく過程は実にスリリング。少々牽強付会に感じる部分もあったが、最終的な結論には大いに納得した。グデーリアンの独断専行、スツーカの“笛”の絶大な心理効果……戦場における不確定要素がこれほどまでに結果を左右するのであれば、戦争計画とは何のためにあるのだろうか?
◆読書メーターの感想(下巻):読み応え十分。本当に面白かった。「こうして“電撃戦”の成功とともに“カンナエ”構想はモータリゼーションの装いも新たに力強いルネサンスをなしとげた。しかし、第二次ポエニ戦争の最終的な勝利者は誰かということが忘れ去られていた」(260p)。指揮官の独断専行(命令違反そのもの!)と、フランス軍の失策に次ぐ失策(もうあり得ないレベル!)があってこそ成功した“電撃戦”だけに、これをシミュレーションゲームで再現するのは不可能に近いんだろうなぁ。
*お片づけの最中、古い本棚から見つけた『ワールドアドバンスド大戦略』の攻略本(実は兵頭二十八師も寄稿している本)を読みながら、Amazonで関連書籍をいろいろ調べていて見つけたタイトル。正直、トンデモ本を読むくらいの期待値で読み始めたものの、1章を読み終えた時点で、「うん、名著だよ、コレ!」と考えを改めました。03年に翻訳された本なので、ミリタリーマニアの方にとっては、既に“基礎教養”として読むべき本になっているものと思います。
★第四位:家康はなぜ江戸を選んだか(江戸東京ライブラリー)
◆読書メーターの感想(上巻):著者の『源氏と日本国王』がとても面白かったので、前著を読んでみたら、これが大当たり。恥ずかしながら「江戸葦原伝説」を信じていたクチだったので、既成概念を打ち砕かれる快感を味わいながら読んだ。「なぜ、家康は源氏に改姓したのか?」「そもそもどうして新田氏の後継を自称したのか?」という謎にも回答していて、その結論にも全然同意。良書。
*『源氏と日本国王』との併せ技で四位。小難しくない歴史本であるにも関わらず、丁寧に調査・検証した過程を紹介しつつ、通説に疑義を唱え、かつリーダビリティが高いという良書。ところどころ飛躍したり説明不足の点もあって、突っ込み所も少なくなかったりするのですが、そこも含めて面白い本です。
★第三位:強盗こそ、われらが宿命・上下(ヴィレッジブックス)
◆読書メーターの感想(上巻):傑作。4時間ちょっとのあいだ、完全に浮世のことを忘れてしまうくらい夢中になって読んだ。美点を数え上げるとキリがないくらい素晴らしいエンターテインメント小説。
◆読書メーターの感想(下巻):タイトルは原題(『Prince Of Thieves』)の方が良かった。古典的なプロットだが、キャラクター造形と舞台設定が見事過ぎて一気に引き込まれた。「強盗の王子さま」という運命に、逆らっても逆らいきれない男の悲哀が胸に沁みる。
*知り合いから「『ザ・タウン』がスゲー面白い!」と薦められ、だったら観る前に読んでおくかと思って就寝前に読んだら、あまりに面白さに徹夜して一気読み。映画も観たけど、原作の方が圧倒的に面白かった。何より冒頭の銀行強盗のアイディアが素晴らしい。パっと思いつくだけで3つくらい新たな発明をしていて――一番凄いアイディアは映像的には地味なものなので、映画では端折られていた。ただ、あのアイディアをそのまま映像化していたら十中八九駄作になっていたとも思うので、ここのところを割り切って脚本を書いたベン・アフレックは正しい。というか脚本、監督とも巧すぎ――、そのいずれもが「明日にでも実践したい」というくらいに良く出来たモノなので、もうここだけでハートを鷲掴みですよ。そのうえで、童貞臭いラブストーリーに香港ノワール的なハードな展開が重なって、加速度的にハナシが進んでいくんだから面白くないわけがない! “中二病”を患っている男であれば絶対確実100%ハマること間違いなし!! と、読後4カ月経っても熱くなってしまうくらいに良くできたエンターテインメント小説です。
★第二位:フランキー・マシーンの冬・上下(角川文庫)
◆読書メーターの感想(上巻):書き出しの15字、冒頭の5行、8ページまでの流れが本当に素晴らしい。81ページまでの日常風景は、ここしばらくに読んだあらゆる短編小説よりも面白かった。そして、ここまでの流れが、普通の小説であればつまらないはずの“引き”でしかないというのが凄い。
◆読書メーターの感想(下巻):「小説としての完成度」という点では限りなく完璧。冒頭の日常生活でさりげなく触れられていたアレが、オチのソレへと綺麗に回収されたところを読んで、思わず鳥肌が立った。大傑作だと思う。
*「ドン・ウィズロウって“このミス”の常連で、ようするにベストセラーなんだから大して面白くないんだろう?」と、正直ナメつつ敬遠していたのですが、『犬の力』を読んでみたら、これがベラボーに面白くて、「だったらもう一つ長編を読んでみるか」と手にとったこっちの方がもっと凄かったという。そう、ハナシの筋とか面白さでいえば、『犬の力』の方が明らかに上だし、この本よりももっと面白いものはいくらでもあるんですが、小説としての凄みでいえば、こっちの方が断然上です。呆れるくらいに筆力が高くて、読めば読むほど完成度の高さに圧倒されました。職人技の究極形だと思いますね。
★第一位:トルコのもう一つの顔(中公新書)
◆読書メーターの感想:本を読んでここまで興奮したのははじめてかも。「トルコ=イスラム国家で唯一近代化に成功した国」というステレオタイプをキレイに打ち砕いてくれた。これほどの名作を、出版されてから20年も読んでいなかった不明を恥じたい気分。
*余計なことはいいません。読書好きでこの本をまだ読んだことのない人は、悪いことはいいません。いますぐ図書館で借りるなりAmazonでポチるなりして読んでください。
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