2010年7月6日火曜日

*読書メモ:明日をどこまで計算できるか?

同書のまとめ(334頁より)
「予測とは全体論的に扱うべきものだ。将来の気候と健康と富は、相互関係をもつ数々の影響に左右されるものであり、ひとつに統合した形で扱わなければならない」
「長期予測の難しさは短期予測の場合とまったく違わない。結果を振り返ることができるのが遠い未来というだけの違いだ」
「気候などのシステムを正確に予測できない理由はふたつある。(1)方程式がない。方程式は計算不可能なシステムには存在しない。(2)私たちが予測に使っているモデルには、パラメーター化の誤差に対する鋭敏性がある。既存のモデルを少しでも替えると、たいてい値がずいぶん異なる予測が生まれる」
「新たな疾病の発生はそもそもランダムで予測不可能だ。鳥インフルエンザが次の大量殺人犯かもしれない――だが、もっと心配なのは、まだだれも聞いたこともないようなものだ」
「モデルは、システムの脆さを理解する一助となる。気候が温暖化するとツンドラが融けたり、熱帯雨林が焼失したりして、大量に蓄えられていた炭素が放出される。ただし、モデルはそうした出来事が起こる正確な確率も、それらによる具体的な結果も予測できない」
「不確かさがあるかぎり、楽観論者と懐疑論者という対立勢力のあいだで意見が極端に分かれる。これが、未知なる将来の危険を見積もることの難しさと相まって、無策へと向かわせる」

血液型がAB型の人はコレラに対して実質的に免疫がある。鎌状赤血球性貧血を引き起こす遺伝子には、マラリアを防ぐ働きもある。遺伝子CCR5の変異型はエイズを引き起こすウイルスを撃退するようだ。

遺伝的要素のある病気の大部分は、たった一つの突然変異した遺伝子によって発生するものではない。むしろ遺伝因子と環境因子の組み合わせによって生じる。そのため現在の研究では、一緒に変化する遺伝子のセットを見つけることに重点が置かれている。

しかし、それが病気の原因となるセットであるかどうかはわからない。例えば心臓病の発病一つをとっても、体力、肥満、喫煙、ストレス、仕事上の地位、近所のファーストフード店の数、純然たる運など、定量化が難しい相関する因子が影響するためだ。

第一次湾岸戦争の折、イスラエルに向けられたスカッドミサイルはほとんど効果がなかったが、その脅威によって心臓発作の発生数が急増した。ストレスは遺伝子レベルで作用するが、それを遺伝病とはいわない。抑鬱のような精神状態も特定の遺伝子の発現に影響するが、だからといって、その原因が遺伝子にあるわけではない。

すなわち「特定の遺伝子が複雑な病気を引き起こす」という統計に基づいた主張は、よくよく検討してみるとほとんどの場合、単純化のしすぎだ。

DNAは本のように読めるものではない。多細胞生物の発達は「マスター分子」からの命令よりも、数多くの小さな局所の決定に負っている。遺伝子型と表現型のあいだに直接的で計算可能なつながりがないということは、ボトムアップでDNAを翻訳できないということだ。

2001年、オーストラリアで行なわれたマウスの不妊ワクチン開発の実験でのこと。その過程では、遺伝子インターロイキン4がエクトロメリア(天然痘の一種。人には感染しない)のゲノムに挿入された。この遺伝子は抗体作りの活性化を期待されていたが、実際にはウイルスを殺人鬼に仕立て上げ、実験台だったマウスは全て死亡した。DNA配列を解析しても、疫病の致死性や伝染性は予測できない。症状は表現型と同じで、微生物と宿主の複雑な相互作用の結果であるためだ。

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