2010年7月3日土曜日

落合、ルーキーイヤーの清原を語る

昨日、山積みになっていた古本を片付けていたら山際淳司の『ルーキー』(角川文庫)を発見。捨てたか売ったかと思ってたんだけどなぁ……と思いつつ、片付けの手を休めてナナメ読みしていたら、落合博満と清原和博の対談を発見! だいぶ昔に読んでいたはずなんだけど、こんな対談が収録されていたとは全然気づかなかった(というか忘れていた?)。

というわけで、ブックオフに流すか、そのまま捨ててしまう前に、落合の対談部分だけピックアップ――さすがに清原との対談の“完全版”となると引用の範囲を軽く超えそうなので――することにします。

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◆86年オフ、TBSの番組にて(『ルーキー』:198~204頁)

落合:(都築注:初めて清原を見たのは)高校時代。甲子園でやっているときにテレビで見た。そのときのほうがよかったという印象だね。なにしろ、構えがよかったんだ。打席に入るでしょ。すると、スッと、すじが通っている。そういうスタンスだった。ところが、プロ入りしてその良さがなくなった。どこで変わったのかな。キャンプ、オープン戦、シーズン初めと、実際にこの目で見ていなくても、毎日、テレビで清原のバッティングは見られるでしょう。それを見ていると、悪くなった。

落合:(都築注:フォームの修正には)自分で自分のチェックポイントを持っていればいいんだよ。それは一年目の選手でも五年目の選手でも同じことだね。コーチのアドバイスを受けるでしょ。そうするとね、迷いが生じてくるんだ。自分は間違っていたんじゃないか、とかね。だけど、自分のチェックポイントを持っていれば迷うことがない。最近はビデオとか、いろんなものがあるから、利用したほうがいい。

落合:(都築注:落合にはスキがないとの指摘に)どまん中だけは打ってないよ(笑)。案外、打てないんだよね、どまん中が。

落合:(都築注:清原が打撃を教えてくれといったら)いいですよ。教えますよ。まだまだ負けないと思うからね。負けないと思うから教えられるんですよ。こいつに教えたら自分が負けになるなと思ったら、教えないね。まだ、しばらく大丈夫じゃないかな。負ける、というところまでいくのは、だいぶ先だよ。

落合:プロに入って初めてのシーズンが終わって、今シーズンは清原に打たれたということで名をあげるピッチャーもいたと思うんだ。それが次のシーズンからはない。もう、そういうのはない。清原を抑えきって名をあげようとする。攻め方は当然、変わってくる。それにどのくらい対処できるか、ということがポイントだろうね。

落合:日本シリーズでも、カープのピッチャーにだいぶ頭に近いあたりを攻められていただろう。あのときね、見ていたら、表情を変えるんだよね。ムッとしたような表情を見せる。あれ、おれにいわせれば損だと思う。

落合:こういったことがあったんだ。谷村さんというピッチャーが阪急にいた。わりと気の強いピッチャーでね、ぶつけても頭を下げるようなピッチャーじゃなかった。そういうピッチャーにぶつけられた。あ、これはぶつかるなとすぐにわかる球、どうせなら痛くないところで当たろうと、関節をさけて脇腹のあたりかな、そこで受けた。それでね、おれは顔色ひとつ変えずに一塁に歩いた。平然とね。そしたらね、あの谷村さんが、帽子をとってあやまった。

今の若いバッターは、ぶつけられるとすぐにニラみかえしたりするんだ。おれがピッチャーだったら、なんだこいつと、もう一度ぶつけてやろうという気になるよ。

落合:(都築注:清原のインコース打ちについて)ヘタだね。たしかに下手。だけどね、今は外が打てる。それを徐々に徐々に内側にもってくればいい。一シーズンでボール一個ずつ内側に入れてくるぐらいの気持ちでいいんだ。このオフからキャンプにかけて、インサイドいっぱいのボールを打とうとしたら、バラバラになるよ。

外には、今でも手が届いているんだから、内側いっぱいまで打とう打とうとしなくていい。あるところからそれ以上内側にきたらゴメンナサイでいいんだ。そういう気持ちでやっていれば、あと、三、四年のうちにインサイドも打てるようになるね。

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谷村智啓のエピソードは、多分、この対談が初出。他の著書では触れられていないものだ。「ぶつけられてもニラまない」「3~4年計画で内角打ちを完成させる」――この二つだけでも克服できていれば、打撃三冠タイトルの二つや三つくらいは軽く取れていただろうに。それにしてもこの本が出た頃は、まさか清原のキャリアハイがルーキーイヤーで、その後、22年も現役を続けるとは夢にも思わなかったなぁ。

2 件のコメント:

  1. K2です。
    打撃論というかアスリートの技術論がキチンと文章化されたのって「ナンバー」が出版されたからかなーと個人的に思っています。落合のいい時期とそれが重なっていた事が嬉しい。てな事を考えました。清原はずっと上司に恵まれなかったもったいない選手。とノムさんが言っていましたね。上司が落合やノムさんだったらどうかってのも想像しずらい話ですが・・・。

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  2. 「ナンバー」については物凄く言いたいことがあるのですが、なかなか上手くまとまりません。沢木耕太郎→山際淳司→金子達仁と連なるポエティックな評論の系譜がねぇ……。清原については上司よりも本人の問題でしょう。自伝に書かれている甘ったれぶり(なんでもかんでも母ちゃんに相談。悪いことは他人のせい)は筋金入りですよ。

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