・カナダのアイスホッケー選手には、同年齢の仲間たちのあいだで、早く生まれた者が多い。これは年齢を区切る基準を1月にしているため。幼少期における12カ月の成長差はあまりにも大きい(都築注~日本では野球を初めとするスポーツ全般で同じことがいえる。3月期を基準としているため、早生まれの名選手は極めて稀。究極の早生まれである桑田真澄は例外中の例外)。
・成功とは「累積するアドバンテージ」の結果。プロのアイスホッケー選手は、最初、同年齢の仲間よりほんのちょっとだけホッケーが上手かった。そして小さな差が好機を招き、その差が少し広がる。さらに有利な立場が次の好機を招く。これが延々と広がって、少年は本物のアウトライアーになる。もともとアウトライアーだったわけではない。ほんのちょっと体格が良くてホッケーが上手かっただけだ。
・成功者を効率より選ぶシステムには、あまり効果はない。カナダのアイスホッケー界では、7月以降に生まれた選手は極めて少ない。基本的にホッケー人口の半分の才能が浪費されているということ。もし、誕生月を7月期で区切ったホッケーリーグがあれば、カナダの代表チームは、すぐに選手選択の幅を2倍に広げられただろう。
・学校でも、誕生月で4半期ごとにクラス分けして競い合わせれば、より多くの才能を発掘できよう。コスト的にも難しいことではないのになぜしないのか? それは我々が「成功=個人の優秀さ」という考え方にとらわれているため。
・1990年代初め、心理学者のK・アンダース・エリクソンはある調査を行った。ベルリン音楽アカデミーで学ぶバイオリニストを3つのグループ――世界的ソリストになれるAグループ、“優れた”という評価に止まるBグループ、プロになれないCグループ――に分け、彼らに同じ質問をした。「はじめてバイオリンを手にしてから、これまで何時間練習してきたか?」
・Cグループは4000時間、Bグループは8000時間、Aグループは10000時間に達していた。エリクソンはプロのピアニストでも調べてみたが、ほぼ同じ傾向が見られた。頂点に立つ人物は、他人より少しか、ときどき熱心に取り組んできたのではない。圧倒的にたくさんの努力を重ねているのだ。
・神経学者のダニエル・レヴィティン曰く、「あらゆる調査から浮かび上がるのは、世界レベルの技術に達するには、どんな分野でも10000時間の練習が必要」とのこと。「作曲家、バスケットボール選手、小説家、アイススケート選手、コンサートピアニスト、チェスの名人、大犯罪者など、どの調査を見てもいつもこの数字が現れる」「10000時間より短い時間で、真に世界的なレベルに達した例を見つけた調査はない」
・心理学者のマイケル・ハウ曰く、「熟達した作曲家という基準で見れば、モーツァルトの子ども時代の曲はずば抜けた出来ではない。ごく初期のものはたぶん父親が書きとめ、手も加えているはずだ。彼のオリジナル協奏曲で、現在、傑作として評価されている作品(K271ピアノ協奏曲第九番変ホ長調『ジュノム』)は、彼が21歳のころに書かれた。協奏曲をつくりはじめてから10年が経っていた」
・稲作はスキル本位だ。より多くの雑草を抜き、肥料のやり方に習熟し、頻繁に水量を見て回り、粘土を均等にならし、畝を隅々まで活用すれば、より多くの収穫が得られる。狩猟採集民族はかなりのんびりした暮らしをしているし、麦作農家の冬は冬眠と同じようなものだ。ある試算によれば、アジアの稲作農業者の年間労働量は3000時間に上るという。
・水田がつくる文化の真髄とは、重労働が水田で働くものに、不確実性と貧困のなかに意義を見出す方法を与えることだ。その教訓は多くの分野でアジアの人々の役に立ってきたが、とりわけ数学に素晴らしい影響をもたらしてきた。
――IQ195の天才であるクリス・ランガンがレッドネックで終わり、彼ほどIQに恵まれなかったR・オッペンハイマーが20世紀最大のプロジェクトの責任者になれたことに典型的であるように、アウトライアーになるためには一定以上の才能に加え、幼少時からの訓練とそれを可能にする家庭環境、文化、運が必要ということ。つまり、「氏より育ち」「他人の助け」が重要というお話です。
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