**「私家版・兵頭二十八の読み方」のエントリでは、日本で唯一の軍学者である兵頭二十八師の著作を、独断と偏見を持って紹介します**
先週上市された『大日本国防史』(並木書房)を読み終えました。「キャリアの長い軍師にして初めての歴史読み物」であり、「デビュー以来のテーマである“国防”を巡る集大成的作品」であり「一冊の本としては近年稀に見るほど情報量の多い作品」でもある本だけに、なかなかスパッと感想をまとめるというわけにもいかず――というかちょっとした仕事や用事や誘惑により、なかなか腰を据えて熟読し、モノを書く気になれない。いわば“魂のやる気待ち”な状況――ということで、まずは兵頭ファン以外の人にとっての読み方についてつらつら書くことでお茶を濁そうと思います。
兵頭ファン以外の人にこの本を薦められるのか? と問われれば、その答えは「YesでもありNoでもある」(リッチー・ブラックモア©)ってとこでしょうか。
確かに「一風変わった歴史読み物」として、何も考えずに楽しく読める本ではあります。別段難しい文章ではないですし、戦争という一大イベントを軸に2600年の歴史を書き下ろしているわけですから退屈する内容でもありません。
ただし、一般的な歴史の知識(高校生レベル)もなく読み始めると、はじめの1/5くらいで挫折してしまう可能性もあるでしょう。書かれている内容が通説と大きく違いますし、何しろ数百年の歴史をコンパクトにまとめているので、そのあいだの「天皇の代替わり」が激しく、ある意味、旧約聖書の冒頭みたいな感じ(アブラハムの息子のイサクが……というアレ)で、人によっては退屈に感じかねないわけです。
なわけで、兵頭ファンでなく、歴史にもそこまで詳しくない読書好きの人が『大日本国防史』を立ち読みするのであれば、是非、以下の章から読んでみてください。
「33 二度の元寇をしりぞける」(140~164頁)
「42 武田信玄の登場と退場」(197~202頁)
まず「33 二度の元寇をしりぞける」について。いくら歴史に詳しくないといっても、元寇を知らない人はいないはず(もし知らないのであれば、ハッキリいって同書を買っても意味はないです)。該当部分の文章は、その元寇の実情について、日本で最も史実に近いであろうことに肉薄し、かつわかりやすくまとめている文章です。元寇について「モンゴル軍が船で攻めてきたけど、二回とも台風でやられちゃったやつでしょ。神風(笑)」くらいの知識があれば、十分面白く読めることでしょう。
次に「42 武田信玄の登場と退場」について。武田信玄って名前くらいは聞いたことがあるでしょうし、戦国時代は歴史小説やNHK大河ドラマ、TVゲームで散々描かれているテーマなので、多分、同書の中では一番とっつきやすい章だと思います。ただ、兵頭本を全く読んだことのない人にとっては、ちょっとクセのある部分でもあるので、歴史も戦国時代も軍事にも詳しくない兵頭本未経験者な人は、立ち読み前に以下のことを“補助線”に使ってみてください。
・武田信玄の血筋はかなり由緒正しいもので、かつ、実力も大したものだった。
・武田信玄は、日本で初めて「駆け足」とか「右向け右」みたいな命令を聞かせる兵隊を育成した。それまでは、どんな兵隊もこんな簡単な命令通りに動けなかったのだ。
・美濃(岐阜県)は、琵琶湖にアクセスしやすい土地だったから重要だった。琵琶湖の港は、淀川を通して瀬戸内海まで続き、ポルトガルやスペインと交易できたから。
・海外交易の利点は、鉄砲の弾と火薬の原料となる鉛と硝石を安く入手できることにある。美濃を獲った織田信長は、近畿以東では誰よりも安く弾と火薬を入手できた。
197~200pまでの内容を大雑把に要約したものです。この辺のことを踏まえたうえで、細かな内容について味わってみれば、「あぁ、そういうことか!」と感得しやすくなるのではないかと思います。
追記:青木直人氏の講演に、軍師がゲスト出演する件。申し込みフォームが完成しています。
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