2015年8月11日火曜日

第一章だけで一冊分以上の価値がある『兵頭二十八の防衛白書 2015』

◆タイトル:『兵頭二十八の防衛白書 2015』
◆目次
・Ⅰ 中東・アフリカ編
・Ⅱ 米軍編
・Ⅲ 中共編
・Ⅳ 朝鮮半島編
・Ⅴ 日本編
・Ⅵ 特別編

「そういえばさ、このあいだ都築クンが言ってたヒョウドウ先生って、この人のこと?」
「そうですかね。ええ、そうです……って、日経新聞っすか?」
「本の広告見てたらさ、ふざけたタイトルに見慣れない名前だったからね。で、都築クンって尖閣とか憲法のハナシをするときに、だいたい『ヒョウドウ先生の受け売りですけどね』って言ってるじゃん。だからさ、苗字が兵頭だから、この人のことかなと」
「いやぁ、兵頭先生の本が日経新聞の広告に載るとはなぁ。しかも9刷で6万部!? こういっちゃアレだけど、多分、ここ5年に先生が出した全ての本を合わせたよりも多く売れてるんじゃないかなぁ」
「でさ、都築クンってこの本読んだの?」
「読んだも何も、2冊持ってますよ」
「じゃぁ、1冊貸してよ」

以上、2カ月ほど前、仕事先で交わした会話です。Amazonの売れ筋ランキング(8月11日現在)で、講談社+α新書で13位、軍事入門で18位と、発売から4カ月以上経っているにも関わらずTop20圏内にあるベストセラー『こんなに弱い中国人民解放軍』(講談社+α新書)を巡ってのハナシであることは、改めて言うまでもないでしょう。内容は軍師の既著の中で最高じゃあないでしょう(同じテーマなら『日本人が知らない軍事学の常識』の方が、内容的に明らかに上)。が、軍師のキャリアにとっては、処女作である『日本の防衛力再考』に比肩するほどの重要な一冊と思います。

さて、軍師にとって画期的なベストセラーとなった『こんなに弱い中国人民解放軍』の次に上梓されるのが、昨年より草思社より刊行されたシリーズ最新刊『兵頭二十八の防衛白書 2015』です。

「えっ!? また対シナ防衛モノなの? シリーズとはいえ『アメリカ大統領戦記』を除いたら、何かここ最近同じようなネタばかりじゃないのかね」

と、思った方、正直に手を挙げてください。全国数千の兵頭ファンで手を挙げなかった人が皆無とは思いません。何せ(四捨五入して)20年来のファンである手前でさえ、タイトルを見た瞬間にチラッと思ったくらいなんだから!

といっても中身は同じではありません。実際、全体の1/4強は中東・アフリカに巣食うムスリムのテロ集団を巡るハナシです。とりわけIS(イスラミック・ステート。いわゆるイスラム国)についての解説は、池○ナントカさんとかNHKに出てくる中東関係の教授連中のハナシよりも1.5倍くらいわかりやすく、100倍くらいタメになります。いや、ホントに。

実際、ISに関する定義づけだって、「ISは『異端』のシーア派絶滅を専ら目がける、シリアからイラクにかけてのスンニ派アラブ人だけの地域遺恨集団である」(18頁)という具合に、誰よりも明確ですからね。

こんないつもより冴えた“兵頭節”で、シーア派とスンニ派の対立軸を中心に、自国の安全を確保するために中東全域のカオス化を目指すイスラエル、シーア派の“本尊”として各国のスンニ派弱体化を目指すイラン、元帝国にしてアラブ人を屁とも思っていないトルコ……etcといった各国の思惑と、各々の事件の背景、これから起きる事象について書ききっています。手前も一人前の大人として、中東情勢についてはそれなりに勉強してきたつもりですが、新刊の15頁から125頁までを読んで、言葉通りに蒙を啓かされました(この辺についてのハナシは、後日改めて書くかもしれません)。

もちろん対シナ防衛ネタだって、いつもと同じ内容じゃありません。今回、手前的に大ヒットしたのは、「膨大な軍事費をつぎ込んだ結果、実数では日本を遥かに凌駕している中共の空軍が攻めてきたら、具体的にどう反撃するの?」という疑問について、120%答えきっているところです。

「中国軍が奇襲してきたら、日本はひとたまりもない」「何百発もの巡航ミサイルや、百機以上の攻撃機による飽和攻撃に対して、現時点で日米軍とも対処できない」――なんてことを、酒の席でふっかけられたりしたものですが(実際、これに類する“中共脅威論”をことあるごとに主張する評論家は少なくありません)、こういう説に対して軍師は、以下のようにキッチリと反論しています。

~~~~~~~~~~~~~~~

 中共空軍や海軍は、長距離を高速で往復できる攻撃機を何十機は揃えている。それに取り付ける対艦ミサイルも、多数ある様子である。
 しかし、その「陸攻」(旧帝国海軍航空隊が陸上基地から飛ばして対艦攻撃させるために開発した中型~大型機)隊を、たとえば南シナ海の米空母艦隊に向けて一斉に発進させようとした場合、かならず米軍のIRS網には「兆候」が捕らえられてしまう。
 まずかなり前から全機のクルーにひととおりの訓練が課される。決行日が近づくにつれて、基地間の通信量が倍増する。暗号を使っているつもりでも、その暗号はNSAが解いてしまう。
 燃料や弾薬やエンジンのスペアパーツの取り寄せがあわただしくなる。その発注のための有線通信も傍受されてしまう(途中にスパイウェアが埋め込まれているので)。基地内からかけられた携帯電話は、傍受専門の人工衛星がその内容を録音する(各種SIMカードはとっくにNSAで解析済み)。
 ルーミント(SNSえやりとりされる住民たちの噂話を傍受し、ビッグデータとして解析するアスピオナージ手法)は、数カ所の基地で特に空気が緊張しつつあることを教えてくれる。
 陸攻が発進する飛行基地では、離陸前のエンジンの暖機運転が、顕著な兆候としてスパイ衛星に探知される。
 そのあたりで米軍は、GPS衛星のシナ大陸および周辺海域に対する位置データ提供サービスを一時的に停波するであろう。GPS衛星は米空軍の管轄なので、電波を止めるのも随意、思いのままなのだ。
 これで中共軍の陸攻は、離陸直前の自機INS(慣性航法装置。三軸のジャイロにそれぞれ加速度センサーがついており、その加速度値を時間値で2回積分して現在の自己位置を算定する)に対する初期座標入力作業を、GPS以外の方法、たとえばロシア版GPSであるGLO-NASや、中共版GPSである北斗[ベイドウ]の信号によって実施するか、あるいはキーボードを使って手作業で入力しなくてはならなくなる。
 自機INSに対する離陸直前の位置座標入力が、信頼度の落ちる数値であれば、そのあとで空中から発射する巡航ミサイルの内蔵するINSにもその不正確さはそっくり引き継がれて、飛んで行った先の洋上で、目標の的軍艦を発見できないということになってしまう。
(中略)
 このように「長距離の巡航ミサイル」というものが「超精密なINS」を内蔵していないで、GPSやGPS類似の信号に依存する方式であった場合、それは米軍相手の実戦では、「役に立たない武器」になるのである。
 中共軍機は米艦隊を攻撃するためには、目標艦から100km以内に近づいて、対艦ミサイルの弾頭シーカーを目標艦にロックオンさせた状態で発射する必要があるであろう。そのような戦術は今日の米空母に対しては非現実的であるということについて、多言は要せぬであろう。

(198~201頁)

~~~~~~~~~~~~~~~

ちょっと長めの引用ですが、あまりにも見事な論だったので、そのまんま載せちゃいました。

というわけで今回の新刊は、半端無く読み応えがあり、内容も充実した一冊となっています。『こんなに弱い中国人民解放軍』で兵頭流軍学に触れた人も、ダイハードな兵頭ファンも、8月15日に読むべきはこの本ですよ。

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿