かつて林望センセイは、「5000円以内の料理であれば、外食より自炊した方がおいしい」と書いていたものですが、実に慧眼であったと思います。10数年前にこの真理を知ってから、それなりにおいしいものを食べ、それなりに炊事のウデもまともになってきた2011年時点の手前としては、「総額10000円以内の料理であれば、自炊でも外食と遜色のないモノが食べられる」にアップデートしたいところです。
なぜ、こんなことを言い切れるのか? 経験則から導き出したものであり、手前個人にしか適用できない真理ではありますが、それなりの根拠はあります。
・根拠その1:総額10000円で供される料理の原価(原価率25%前後。物凄く良心的なケースでも30%~35%)で揃えられる食材は、ほとんどの場合、一般のスーパーや業務用スーパー、肉のハナマサなどで購入できる。ただし、調味料は別口。
・根拠その2:2500~3000円程度の食材を調理するにあたっては、よほど凝った料理でない限り調理技術に大きな差が現れにくい。
・根拠その3:ある程度の炊事のウデ――米を洗剤で洗わない、鶏肉を焼くときにフライパンの蓋をしない、ナスやたけのこを調理する際にはあく抜きをするetcという基本の基本レベルをクリアしている程度のウデ――があれば、自分好みの味付けができるアドバンテージ込みで、外食と遜色のないモノが仕上げられる。
というわけで、手前としては「総額10000円以下の料理」については、必要に迫られない限り外で食べることはなく、まして「お節料理」を購入するなんてことは、料亭のものであろうがスーパー、コンビニエンスストアのものであろうが、通販であろうがあり得ないわけです。だって、「お節料理」なんて人件費がバカみたいに掛かる料理の最右翼なわけで、その分、原価率が抑えられているのは目に見えているわけでしょ? こんなもの買うなら黒豆でも栗きんとんでも食べたいものだけを作るか、出来合いのものでいいから単品で買ったほうが絶対に得なわけだから。
その意味で、新年一発目の祭りとなった「グルーポン&バードカフェ汚せち事件」については、本来なら「買ったヤツがバカだろ!」と思うだけで一顧だにするトピックではなかったはずなんですが……どういうわけか去年暮れに仕事絡みでフラッシュマーケティング(グルーポン型ビジネス)について調べる機会があったもので、それなりに事情を知っていたこともあって、実に楽しく眺めていたわけです。
この祭りに対する手前のスタンスは、
「実際に買った人は、オレオレ詐欺の被害者と同レベルのうっかり屋さん」
「バードカフェ(外食文化研究所及び水口一族)には外食事業を展開する資格はない」
「グルーポンのデューデリジェンスはクソ」
というもの。
ただ、この件をもってフラッシュマーケティングに規制をかけることについては、「また天下り先をつくんのか? コラ!」という考えしか浮かびません。
フラッシュマーケティングのあるべき使われ方は、「街の惣菜屋がコロッケを作り過ぎたので、18:00から閉店までの間、5個¥100の捨値で売り切って在庫を掃ける」という小ぢんまりしたビジネスを、ネットを介して大々的にやるってことでしょう?
街の惣菜屋であれば、店頭の張り紙でOKだけど、もう少し大きな店舗であれば張り紙では認知不足or折込チラシでは時間的なロスが大きすぎる。だったらネットで告知すればイイじゃん! でも、ただのお店がTwitterをやってもフォロワーがいないし……ってところに、CMで名前を売り、多数のフォロワーを抱えているグルーポンみたいのが仲介に入れば、店は廃棄するはずの在庫で幾ばくかのお金が得られ、グルーポンは仲介料を得られ、顧客は捨値で商品を得られて三方一両“得”――というのが、アメリカでビジネスが立ち上げられた当初に考えられていた、理想的なビジネスモデルってところなんでしょう。
が、ビジネスモデル自体があまりにも簡単に模倣できる(いまや100万円以下でフラッシュマーケティングのスターターパックが売られている)&このところ景気の良いハナシがなかったIT関連ビジネスに突如現れた有望なビジネスモデルということで、IT成金の資金がどっと流入して一気に過当競争になり(10年4月には片手で数えるほどしかなかったのが、いまや200社近くに増えている)、結果、「市場を制するにはシェアや! 売り上げや!」「業界ナンバー1になるには違法行為も許されるんや!」という、ゼロ年代的イケイケドンドンでデューデリジェンス無視な光通信ライクの“攻めの経営”が横行した結果、こういうことになったと。
ただ、こうした事件は新ビジネスの黎明期には必ず起こるものでしょ。結果についていえば、「死亡事故or深刻な食中毒を発生させずに、ビジネスモデルの問題を露呈させ、かつ世間の注目を集めた事件」が起きたってことで、フラッシュマーケティングの業界全体についていえばこれ以上ない自戒となる事案ともいえるわけで。少なくともまともなアタマのある経営者であれば、クライアントの調査、統制について考えざるを得ないだろうし、結果としてアホみたいな拡大路線にはブレーキがかかるだろうし。それでもなお突っ走る企業には遠からず鉄槌が下され、市場から放逐されるだろうし。
で、1年で急拡大した市場は、1~2年で一気に再編・収斂されていくんでしょう。そのときに残るのは売り上げ№1の企業ではなく、良質なクライアントを抱えた企業――ブランドを持った店、資金繰りのためにサービスを使わないような強固な経営基盤を持った店をたらしこんだ企業――ってことになるんでしょう。
なもんで、規制についていえば、いまかけるのではなくて、ある程度市場が固まってきてから考えた方がいいんじゃないかと。もちろんその間にも大小さまざまな詐欺的事案は起きるだろうけど、ここまでネットで情報が素早く広まる&今回の事件でフラッシュマーケティングに対する批評眼を磨いたユーザーが闊歩するいまの時代において、詐欺を起こしたプレイヤーがのうのうと生き残れるものではないからね。
追記:「祭り」の最中の2chで見た秀逸な書き込み。
410:名刺は切らしておりまして :2011/01/03(月) 16:17:11
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