2010年12月23日木曜日

<絶版兵頭本>紹介@『日本のロープウェイと湖沼遊覧船』:その2

◆愛知県
・三谷温泉:昭和50年に廃止。1960年代の急激なモータリゼーションにより、多くの庶民が少しでも遠い場所にレジャーを求めた結果、この種の安易なアミューズメント用の索道は集客力を失ったのだろう。同じ現実が昭和40年代、全国一斉に観光索道を淘汰している様を、読者は本書によって確認されるだろう。

・内海フォレストパーク:近年流行の「単線自動循環式」。リフトと似ていて支索と曳索の別がない。1本のワイヤーが常に一方向に走行し、リフトは発駅でワイヤーを掴み、着駅でワイヤーを離す。利用客の繁閑に応じやすくコスト削減も容易だが、人間をブロイラーのように捌いてやろうという効率思想むきだしのシステムであるため、行楽客に与える非日常的なインパクトは、「タメ」のある交走式ロープウェイや客に危険分担を求めるチェアリフトよりも劣る。

◆青森県
・十和田湖:遊覧船のスピードについての一般論。普通の船底の形をした船で12ノット以上を出そうとすると、造波抵抗がみるみる大となり、20ノット以上は燃費がむちゃくちゃ悪くなる。経済性を重視するタンカーは12~13ノットしか出さない。水の表面を滑走するモーターボートや、普通の船底でも特別な需要があるのでペイする冷凍高速コンテナ船でないかぎり、遊覧船は無闇にスピードを競うことはない。また、あまりにスピードを出すと、水飛沫や乗客の転落防止への対策が必要となり、オープンデッキを制限しなければならなくなる。

・八甲田山:一日で十和田湖と一緒に満喫するのは無理だろう。理由はバスのダイヤが、観光地に客を入り込ませるためだけに作られているため。だから同じ日に一つの観光地から離脱して別の観光地に向かうためには甚だ不便だ。全国の低迷中の観光地に、この通弊がある。

・岩木山:日本の観光運輸業のほとんどすべて、そして、民鉄の半数以上は、近代以前から続いている山岳宗教の需要がそこにあったからこそ起業されたのだ。中世から民衆は、関銭をとられても参詣には欠かさず出かけようとした。日本全国、山岳宗教のない場所のなかったことは、本書を通読されればわかる。

◆石川県
・山中温泉:昭和33年4月1日より施行された売春防止法は、日本各地の温泉地が大転換する契機となった。それ以前の温泉地は「歓楽(=セックス)」がセットになっていたためだ。売春防止法施行前の昭和20~30年代には、純文学の大作が多く生み出されていた。およそ「歓楽」で金が動くところには暴力団などが入り込んでくるもの。そんな反省から、多くの温泉地はお上の指導により、「健全な観光地」に脱皮しようとまじめに考えた。このときに引き起こされた伝統破壊がどんなものであったかは、100年くらい経たないと正確に把握できないだろう。この「健全な観光地」への転換策として、山中にはロープウェイが開設された。

◆岩手県
・安比高原:東北と沖縄と比べてどっちが悲惨なのか? 沖縄の若者はいったん都会に出ても、必ずUターンして沖縄で生計を立てている。それが可能だからだ。東北では中高年を過ぎても、一定数の男子は毎年冬に出稼ぎに行かねばならない。この東北人の運命もスキー場ができた土地だけは良い変化が認められた。スキー場のある地元民だけは出稼ぎにいかずに済んだのだ。
(つづく)

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