**「私家版・兵頭二十八の読み方」のエントリでは、日本で唯一の軍学者である兵頭二十八師の著作を、独断と偏見を持って紹介します**
このほど晴れて文庫化された『日本海軍の爆弾』(光人社NF文庫)をようやく購入しました。以前、駒込に住んでいたときであれば、どんなマイナーな本でも巣鴨から三田線一本でいける神保町書店街でフラゲしていたものですが、いまは一応首都圏であるものの紛うことなき田舎に住んでいるものですから、何かのタイミングで都内に出ないことには中々入手できないんですよ。Amazonで買えばいいって? いやね、貧乏人だからなるべくカードの引き落とし額は抑えておきたいんです(>_<)。
本編についてですが、文庫化にあたっての新要素は「文庫版の前書き」と「14pに渡る爆弾のCG&写真」の二つ。とりわけ「文庫版の前書き」は、ともすればマイナーなカタログ本に見えがちな同書を読み込むにあたっての“補助線”として実に役立つものとなっています。ある意味、文庫化にあたっての一番のウリでもあるので、内容については敢えて紹介しません。爆弾のCG&写真もなかなかの力作で、ミリタリー分野に疎い手前のような読者には、爆弾の正確な形状や機能を理解するうえで大変にうれしいおまけといえます。
ただ、文庫化にあたって残念な点は、四谷ラウンド版の各章冒頭にあった小松直之氏のイラストが全部なくなっていること。1章冒頭の「第二次大戦までの主要な海・空兵器の発達相関」や、6章冒頭の「タ弾と3式弾の違い」(タ弾がどのように“効く”のかが、一発でイメージできる素晴らしいイラスト)の解説イラストは本当に傑作だったので、これが再録されていなかったのは正直残念でした。
さて、内容ですが、実のところミリタリー分野に明るくない手前にとって、同書は数ある兵頭本の中で唯一苦手な本の一つなんですよ。刊行当初は「ところどころ手前にとって面白いところはあるけど、大部分がカタログみたいな本だからなぁ」と、一通りナナメ読みした後は、大して再読もしてなかったわけです。
で、今回文庫化されたのを機に読み返してみたんですが……やっぱり兵頭本は再読してナンボだなぁ、ということを再認識しました。イヤほんと、初版当時にナナメ読みしていたときには気づかなかったけど、実に面白く有益な指摘があったことに今更ながら気づかされました。
「一見して、アメリカ空母の『撃たれ強さ』と日本空母の『撃たれ弱さ』が目につく。ちなみに『ヨークタウン』は、『サラトガ』や『レキシントン』と違い、戦艦を改造した空母ではない。しかしこうなった原因は、日本海軍の『防禦』『ダメージコントロール』への取り組み姿勢の不徹底さだけでは、もちろんない」(65p)
と、当時の「ダメコンがアレだったからすぐ沈んだ」との通説を、「急降下爆撃機が投下する爆弾の基本性能と信管選択」「艦載機の燃料タンクの配置」「投下器と魚雷運搬車」「魚雷の炸薬と爆発尖」から再検証。その流れから、アメリカ海軍の艦隊戦(空対艦攻撃)思想の“根っこ”を探っていく「第2章:陸用爆弾」。
「『4号爆弾』は、低空まで舞い降りるために命中率が高い急降下爆撃機に、高空からの水平爆撃と同じ爆弾の終速を与えようと、ロケットで加速させる爆弾である」
「(中略)とはいえ、『ロケット加速爆弾』という日本では前例がない発想そのものは、外来のものと疑うべきだろう。たとえばドイツ、イギリス、ソ連においては、類似のロケット加速爆弾が、複数造られていたのであった。日本ではロケットの研究体制がまるでなかったので、この爆弾の研究の立ち上がりが昭和一〇年にずれ込むのだが、その頃には、大西らの期待の焦点は、命中率よりもアーマー貫徹力に置かれていた感じがある」(117~119p)
というロケット爆弾の機能と記録から、大西瀧治郎の「爆戦」運用を軸とした航空決戦思想を解きほぐしていく「第4章:戦艦を撃沈できる徹甲爆弾」。
そして「スキップボミング」の手法、効果をわかりやすく紹介するとともに、こうした“合理的”な攻撃方法が知られていたにも関わらず、大西瀧治郎が「特攻」という別の“合理的”な戦術を採用するに至ったのかを爆弾、航空機、資材、の面から詳らかにした「第9章:反跳爆弾――『特攻』のオルタナティブとして」。
いずれも、当時のミリタリー業界ではほとんど広く紹介されていなかったテーマで、データを基に掘り下げ、ときにアクロバティックに視野を広げながら通説を覆し、新説を提示する課程は本当に面白いものです。もっとも、このように読めたのも「文庫版の前書き」で頭の中に“補助線”を引けたお陰かもしれません。
よく訓練されたファンを自認している手前にしてちょっと苦手だった本ということで、フツーの本読みな方には薦められないのか? というとさにあらず。てか、兵頭本を一冊も読んだことのないライトな読者……例えば、「日本軍って何で『特攻』なんてバカなことをやったのかねぇ?」なんて素朴な疑問を抱いたことのある歴史好きな方や、一昔前のミリタリー本の“通説”にどっぷりハマったような方にこそオススメしたい本です。それこそ、これまで持っていた固定観念がキレイに打ち砕かれる快感を味わえるはずです。
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