目次と概略
◆第10章:軍事における革命(RMA)――ネットワーク中心の戦争
・ITネットワークへの移行は戦争のあり方を変えると考えられていた。直近のRMA(=ネットワークの戦争)は戦場の霧を無くすことを期待されていたが、偶然や混乱、ミスなどにより無くせなかった。一方、真の革命である無人システム、ロボットについては顧みられていなかった。この新たな変化の風は何を引き起こすのか?
「戦争における無人システムの開発と使用の拡大は、陸軍大学のある報告書によれば、『政治的、法的、倫理的問題のハリケーンを引き起こす』」(298頁)
◆第11章:「進歩的」戦争――ロボットでどう戦うのか
・ロボットの戦争には、新たな戦争の<教義>が必要だ。戦車に電撃戦という<教義>があったように、無人システムの使用について正しい<教義>を策定する必要がある。米海軍は長らくマハンの<教義>を信奉していたが、ロボットの出現によりコーベットの<教義>に乗り換えつつある。生態系からヒントを得た「スウォーミング」は、米陸軍の新たな<教義>構想の一つ。パルティア人やモンゴル人の騎馬大軍団の戦争に近い“群れ戦術”だ。人工の鳥のプログラムを作ったクレイグ・レイノルズ曰く、群れを作るには3つの単純なルールで良い。「①分離――他の物体に近づきすぎない」「②近くにいる鳥に速度、方向をあわせるようにする」「③自分のすぐ近くの鳥の集団の中心と思われるところに向かう」。
◆第12章:アメリカが無人革命に敗れる?
・技術の一番乗りは、新技術を早い時期に使うメリットがある反面、開発にカネがかかる。加えて技術の形態やデザイン、組織、戦略、戦術を早期に決める必要がある。一方ライバルは、初期コストにタダ乗りし、すでに上手くいっているものを模倣し、リソースの全てを一番乗りのモノの改良につぎ込める。歴史を見れば、ある国がRMAでリードを守れるケースはごく稀なこと。ロボット技術におけるアメリカの優位も絶対的なものではない。
◆第13章:オープンソースの戦争――大学生、テロリスト、戦争ロボットの新たなユーザー
・現代は高度な軍事技術を誰もが利用できる時代。どんなテロリストでもアマゾンで買ったGPS装置で標的を正確に特定できる。その証拠にヒズボラは、全アラブが束になっても敵わなかったイスラエル軍を退けた。アルカイダも9.11以降、中央集権型の集団から世界中に細胞が散らばる運動へと進化している。新技術導入にも極めて貪欲で、あるサイトでは自宅のPCからイラクのIEDを爆発させるチャンスを与えている。
「ある国を全滅させられるものを五十ドルで買えるとしたら? 言ってみれば、ツイてない一日を送っている人間は誰でも、国の存続を脅かす存在になる」(394頁)
◆第14章:敗者とハイテク嫌い――変わりゆくロボットの戦場と新たな戦争の火花
・子どもの兵士を生んでいる「南北問題」。第三世界で急増するメガスラムが戦場になる可能性の指摘。ロボットの進化がこうした経済・情報格差をより大きくする。そうした土壌が生まれるであろう“新”ラッダイト運動(=反機械主義)への懸念。
「私たちの技術信仰は実は弱点であり、そのせいで戦争に勝てない……リベリアやルワンダやスーダンやコンゴのような問題を、いったいどうやって技術で解決できるというのか。戦争はいまだに生身の人間の領域だ」(420頁)
◆第15章:ウォーボットの心理学
・03年、イラクに侵攻した米軍の技術は、イラク共和国防衛隊のエリート大佐によれば「信じられないほどのものだった」。しかし、イラク人はやがてピンポイント爆撃にも慣れ、当初受けた心理的効果はあっという間に薄れてしまった。また、米軍が無人システムを多用するほど、テロリストは積極的に攻撃したくなる心理が働くという。つまり、「無人システムの多用=死に直面したくないというアメリカ人の気持ちの表れ」であると考えているということ。
「人間の軍隊には何か『構想、夢、悪夢、あるいはこの三つを混ぜ合わせたものが、気合を入れて猪突猛進するには必要だった』。ロボットの場合は、充電するだけでいい」(455頁)
◆第16章:ユーチューブ戦争――一般市民と無人戦争
・自由体制における戦争とメディアの相互関係について。無人システムの進化により兵士の命を賭けずに戦争を起こせるようになる。一方、YouTubeに戦場の風景がBGMつきでアップされるようになり、“戦場のポルノ化”が進みつつある。リスクなき戦争はそもそも戦争といえるのだろうか?
「ファッセルは戦争が無人化する傾向と、それが予告する状況を激しく非難する。(中略)そして、こう嘆く。『結局、人びとは次世代の戦争を支持するだろう。テレビがそう命じるからだ』」(471頁)
◆第17章:戦争体験も戦士も変わる
・無人偵察機のパイロットは「戦場を見通す神の目」を持ち、戦争に行かずに戦争をする最初の世代。一方、ロボットが戦場に深く浸透することで、現地の兵士がロボットに人格を感じるようになる。無人戦闘機の操縦に関する研究で、人間の操縦者と協力して任務にあたるプログラムに、愛想の良いAIと無愛想なAIの二つを用意して任務状況を調査した。結果は歴然としたもので、愛想の良いAIが早く任務を終えた。
「ゼネラル・ダイナミクス・ロボティック・システムズのマーク・デル・ジョルノ副社長は言う。もちろん、「癖」というのは人間の勝手な連想にすぎない場合が多い。『“人格”は、たとえば、ステアリングがちょっと甘くなったせいだったりする』」(489頁)
◆第18章:指揮統制――新技術が統率に及ぼす影響
・情報技術の進化により、戦場を遠く離れた指揮官が現場の兵士の処理している問題に口を出しすぎる問題が出てきた。プレデターから送られてくるリアルタイムの映像を見て、個々の兵士の配置まで将軍が指図する。技術の進化はこうした「戦術的将官」と「戦略的伍長」(かつては大佐が下していた空爆の決断をいまでは伍長が下せる)を生み出した。将官の意思決定をサポートすべく、DARPAは統合戦闘指揮システムを開発した。このシステムは指揮官が自らの計画を視覚化し評価するとともに、様々な効果の影響を予測できるようにするAI(注:いわばTVゲームの『大戦略』みたいに戦争を単純化なものか?)。これにより指揮官を悩ます情報過多の問題は相殺できるという。
◆第19章:誰を参戦させるか――科学技術が紛争の人口構造を変える
・大型無人飛行機のパイロット訓練は、導入研修がフライトシミュレーターで、その後、小型ラジコン操縦を40時間、1/3モデルの模型操縦を40時間実施。その後、実物を操縦して完璧な飛行が40時間に達した時点で免許皆伝。レイブンUAVのような小型機であれば、訓練に1時間かからないこともある。こうした新技術のおかげで、誰もがパイロットになれる。
「ある会員がウォードに尋ねる。自分の孫は『朝から晩までプレイステーション式のテレビゲーム漬けになっていた』から、軍でやっていけるか、と。ウォードはこう答える。『“ブートキャンプ”ってやつを切り抜けられさえすればね』」(527頁)
◆第20章:デジタル時代の戦時国際法をめぐって
・米軍はすでに膨大な時間と努力を戦争の法的な側面につぎ込んでいる。プレデターが怪しいトラックを見つけ、これを攻撃しようとするとき、横にいる独立法務官が渋い顔をする――こうしてタリバンの指導者であるオマル師は難を逃れた。加えて無人システムはあらゆる映像を録画するため、戦争のプレーバックができる。このため後知恵で作戦を批評されてしまい、より法律による束縛が強くなってきている。ロボットの自律性が高まれば、当然、法的問題はさらにやっかいになろう。金属以外でできているロボット(探知しにくくテロリストにはもってこいのモノ)は禁止されるかもしれない。
◆第21章:ロボットの反乱?――ロボットの倫理をめぐって
・ロボットが人間の主人になる可能性について、少なくない専門家が深刻に受け止めている。ロボットによる乗っ取りを心配すべき業界があるとすればエロ分野。ほとんどのロボット関連企業は、最近、ポルノ業界と巨額の契約を結んでいることを公表しない(注:オリエント工業が世界を席巻する日は、案外遠くないのかも?)。
「新技術の倫理問題を検討する責任は、研究者と政策立案者だけでなく、より広い一般市民も共有している。ロボット倫理の問題がもち上がると、SFと受け取られることがあまりに多く、ダニエル・ウィルソンが得意とするような嘲笑の対象にされやすい。実際、多くのロボット工学者がこの問題についていっさい話したがらないのは、おそらくそのせいだろう。倫理的に恥ずべきことだ」(618頁)
0 件のコメント:
コメントを投稿