昨日に引き続いて『第5共和国』の感想。要するにこのドラマは「第7共和国による第5共和国史」ってことであり、現代版の『史記』(=現政権による前政権断罪史)なんですね。儒教国家の歴史は「何でもかんでも前政権が悪い!」と断罪するものだから、関係者がピンピンしていても名誉毀損を恐れずに歴史を描けるのでしょう。
……と考えたのは、ドラマ視聴の副読本のつもりで『極秘韓国軍―知られざる真実・軍事政権の内幕(上下)』(金在洪著、韓桂玉訳。光人社)を読んだからです。
同書は、元東亜日報記者である著者が、93年4月1日から東亜日報に連載した『軍――昨日と今日』をまとめたもの。その内容は、「軍部の秘密組織である一心会(ハナフェ)の暴露本」といったもので、朴正煕暗殺事件の内幕や粛軍クーデター、全斗煥と盧泰愚の暗闘などの暴露を通して、第5共和国の中心的存在だったハナフェを断罪した本といえましょう。ちなみに著者は現在国会議員。こういうネタを主張する大変愉快な人です。
で、この本に描かれている内容のほとんどそのままが、『第5共和国』に援用されているんですよ。
いくつか例を挙げてみると――
①朴正煕は自主武装を目指した。核開発もいいとこまで進めていた。
②でも暗殺でダメになった。金載圭はCIAに近かったよ。背後にいるのはCIAだろ!
③暗殺後、金載圭が陸軍本部ではなく情報部に行っていれば歴史は変わったはずだ。
④朴正煕を暗殺した金載圭は、早すぎた民主化運動の闘士だよ。
――というヨタ話に加え、粛軍クーデターについては、開始から終了までの流れ、途中のセリフまで、ほとんどが同書の第二章(第二章:権力は再び銃口から)の引用です。上記に紹介した朴正煕暗殺の4つのポイントについていえば、①は本当、②はロッキード事件CIA主導説くらいの信憑性、③は噴飯モノ、④は論ずるに足らず――というところでしょうか。
このほかにも粛軍クーデターの流れと解釈などは、ほとんど全てが同書の描写と重複しています。
さて、同書の元になった連載は、<軍事政権>に引導をわたした<文民政権>である金泳三政権発足の4カ月後にスタートしています。その著者は東亜日報記者時代の80年に「東亜日報自由言論宣言」を発表したことで全斗煥政権により強制解職された記者です。この2つの事実から導かれるのは、「全斗煥政権に恨み(韓国/朝鮮風に言うところの“恨”)を持つ記者と、<軍事政権>の影響力を一層したい<文民政権>の利害が一致した連載」という答えになるでしょう。
で、そういう本を元ネタにしたドラマだからこそ、全斗煥は徹底的に悪く描かれています。
(つづく)
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