2010年8月10日火曜日

川島堅、「野球肩・野球ひじを治す本」:その2

以下、「第5章:肩・ひしを痛めない投球フォーム」(142頁)より抜粋。

◆プレートの踏み方
左足が3塁側にインステップする投手が、プレートの右隅を踏んで投げると、体重移動が2段階になる。プレートの左隅を踏んで投げるのが良い。左足が1塁側にインステップする投手は、プレートの右隅を踏んで投げると良い。いずれも体重移動がまっすぐできる。

◆スタートポジション
右足をプレートに乗せ、左足を半歩ほど後ろに引いて両腕を振りかぶるが、このときそっくり返ったり、左足を引きすぎてはいけない。

◆軸足で立つ
軸足一本で立つときは真っ直ぐ立つ。上げる左足の高さに決まりはない。上げすぎると勢いはつくが、立っていられなくなる。腰のひねりは左ひざの入り具合でわかるが、左ひざはあくまでも体の中心線を超えないようにする(つまり、左足は真っ直ぐ上げる)。

◆左足のステップ
6歩~6.5歩といわれるが決まりはない。自分がしっくり来るステップ幅で良い。ステップが広すぎると重心が後ろに残るため、パワーが効果的にボールへ伝わらない。逆に小さいと腰高になりフォーム自体が安定しない。ステップした左足はひざが1塁に倒れないよう、同時に右足は2塁側に向かないようにする。つま先が「ハの字」になるようにする。

◆左腕と左肩の使い方
左腕を上げたとき、腕が肩のラインより低いと体が前に突っ込む。結果、球離れが早くなってしまう。逆に上げすぎた場合は、パワーが斜め上に向かってしまいボールに伝わりきらない。左腕は小指側を上にする。これにより肩の開きが防げ、球離れを遅くできる。

◆右腕の動き
ヒジと肩を同じ高さにまで上げる。ひじの角度は横から見て90度、投げるまで手の甲は打者の方を向ける。ひじの高さが肩より低いと腕のスイングが小さくなり、ひじ、肩を痛めやすい。一連の動きの中ではわからない程度に低くても、ひじのケガの原因になり得る。逆にひじが肩より高いとうまく力が入らない。ひじの角度が90度より大きくても小さくてもダメ。どちらの場合もひじと腕が遠回りするため。結果、ひじの外転が強くなり、ひじに負担がかかる。最短距離で振るには90度が最適。

◆フィニッシュポジション
フォロースルーにおいても、ひじが肩より下がるとケガの原因となる。投げ終わった後、ホーム方向に真っ直ぐ向いていればスムースに体重移動できている証拠。

このように川島は、イラストを使い23ページに渡って「ケガをしにくい投球フォームの勘所」を解説している。そこに書かれている内容は、ある意味で古典的な<あるべき投球フォーム>の説明をなぞったものともいえる。すなわち、全ての動きに真っ直ぐであることを意識し、肩とひじを同じラインに上げ、肩を開かない――という“正しい”投球フォームのことだ。実際、古参OBが現役選手のフォームにケチをつける際の基準は、この川島の説明とほぼ同様の<あるべき投球フォーム>理論がベースとなっている。

「左ひざが二塁側に入りすぎですね。これではバランスが悪いですよ」
「ステップが少し小さいですね。これではフォームが安定しませんよ」
「ここで肩が開いているからバッターには球の出所が丸見えなんです」

川島の投球フォーム解説は、こうした古参OBによる“したり顔”の解説の元ネタを、「ケガをしにくい」という切り口から語りなおしたものといってもいいだろう。

ただ、川島が古参OBよりも優れているのは、ここで説明した投球フォームが絶対的なものではないことを理解し、その旨をしっかりと書き残していることにある。

「投球フォームがまったく同じ投手は一人もいないといいましたが、実は、すべての投手に共通していることがあります。それは、それぞれの投球フォームは、投げている本人にとっては、らくで無理のない形だということです。これは、ケガをしない投球フォームといい換えることもできます」(143頁)

言われてみれば当たり前のことだ。しかし、こんな当たり前のことをわきまえずに解説で現役選手のフォームにケチをつけたり、投手コーチとして若手投手のフォームを無駄に改造して選手生命を奪ったりする古参OBが少なくないのも事実だ。川島がフォーム改造を決断したときの広島の投手コーチにして、解説者としての評判も決して高くない池谷公二郎などは、その典型だろう。
(つづく)

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