前に更新したのが2週間以上前ということで、今更感がハンパない感じですが、TPPについてのハナシです。
・遅ればせながらTPPについて勉強してみた
・TPP研究会報告書(キヤノングローバル戦略研究所)
この前の更新までは、推進派の書いた書籍や政府資料などが少なく、ゴリゴリの推進派であろうキヤノングローバル戦略研究所の資料をベースに四の五の書いたのですが、この2週間で新たな情報が出てくるわ、反対派の学者がTVで大暴れするわと、11月のAPECに向けいろいろと大きく動いているようです。ともあれ、当blog的には「前回更新で中途半端だったのを終わらせる」ことの方が大事なので、とりあえずTPP研究会報告書の続きをやります。
以下、報告書の残り半分に書かれている「TPP反対論」に対する反論です。
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「アメリカのトラック、ベアリングの関税はそれぞれ25%、9%、EU の薄型テレビ、中型自動車の関税は、14%、10%となっている。米韓やEU 韓の経済連携協定によって、日本企業は、アメリカ市場やEU 市場において韓国企業に比べて不利な競争条件を甘受しなければならなくなっている。WTO 交渉が進展していれば、アメリカのトラック関税は6.1%、EU の薄型テレビ、中型自動車の関税は、それぞれ5.1%、4.4%に低下し、このような不利性はまだしも軽減されていた。しかし、WTO 交渉は停滞している。この結果、日本企業の中には韓国に工場を移転する動きが現に顕在化しており、このままでは一層空洞化が進展するおそれがある。TPP やEU との経済連携協定はこのような競争条件の不利を是正することになる」
――反対派の言い分(やれ現在でも現地生産だから関税は云々とか市場規模が云々とか)はいろいろあれど、とりあえず数字の上では何一つ間違ったことは書いていない。これはこれで正しい。
「我が国の加工品に対する関税は、加工食品を除いて、無税または相当低い水準となっている。したがって、TPP に我が国が参加してこれらの関税が撤廃されたとしても、国内の企業が海外に進出して、海外で生産したものを日本市場に向けて輸出するという事態は生じない。他方で、海外市場の高い関税が維持されたままになると、国内で生産したものを海外市場へ向けて輸出することは円高等の進展の下ではますます困難となるので、企業が海外(または当該国とFTA を締結し、関税なしで輸出できる国)に工場を移転し、進出先の国で生産・販売した方が有利となる。この結果、国内の雇用に影響が生じる。いわゆる産業の空洞化の問題である」
――前段の加工食品の関税に関するハナシは、ここで書かれているハナシに全然同意。反対派はこういう陰謀論に近いハナシを主張するのがねぇ……。ただ、後段の輸出のハナシについては、そもそも日本の加工食品に競争力なんてあったものじゃないわけで、この理屈も無理筋じゃね? という感想しかない。この部分について言えることは、「上記のような事態は手前が生きているうちには起きそうにないのでは?」ということ。
「しかし、アメリカの輸出産業にとって日本の地位は低下してきている。アメリカの輸出相手国のシェアを全世界及びTPP 参加国に日本を加えた国について、それぞれ示すと次の図のようになる。しかも、将来に向けて大きな市場拡大が期待されるのは、高い経済成長を続けているアジア太平洋の国々であり、アメリカはTPP が将来APEC 全体に広がっていくことを見越してTPP に多大な労力を割いているのである。アメリカにとってTPP=日米FTA ではない」
――工業及び農業製品の輸出先としてのハナシに限定されるのであれば、全然同意。市場の魅力としてはインド、中国が本命であることは確かでしょう。でも、このハナシは工業及び農業製品に限ったことでは全然なくて、その先にある第三次産業を見据えたハナシであることは誰の目にも明らかなわけでしょう? この辺のことを推進派が敢えて触れていないことは非常に不安。
「もちろん、WTO にも同様の規定があり、脱退は自由だが、世界的な公共財であるWTO から脱退することは考えられない。しかし、10 カ国程度のTPP であれば、脱退は現実味のある脅し(credible threat)になる。脱退という事態は好ましいものではなく、そのような事態が生じないように交渉すべきであるが、協定締結後予期せざる事態が発生し、TPP に反対する論者が言うようにTPP への参加が日本にとって著しい不利益をもたらすような事態になれば、脱退を辞さずに修正交渉を迫ることができるだろう。いわんや「一度TPP 交渉に参加すれば、日本は自らの利益と関係なく、アメリカなどから押しつけられた要求を飲むしかなくなる」などと考える必要はない。
――ここの部分は全然同意。
「公的医療保険制度の扱いなどTPP 反対論が懸念している問題は、TPP 参加国にとって特別に取り上げて議論しようとするほどの関心事項とはなっていない。さらに、多様な国が参加するTPP 交渉で、アメリカだけに採用されているルールがいきなり共通のルールとなる可能性は低い。仮に、国内規制自体が非関税障壁として問題とされる場合も、一方的に譲歩する必要はなく、日本自身の立場から規制の変更が望ましい場合や、日本の譲歩に見合うアメリカ等の譲歩が見込まれる場合のみ、規制を見直せばよい」
――この理屈は推進派のお里が知れるというか……。そもそも「交渉に入らなければ具体的な条件がわからない」という理屈が、推進派の一番のウリなわけでしょ? であれば、何でこういうことをさも確定的な事項として言えるわけよ? それに最悪事態を想定してモノを見るのであれば、日本が“ババ”を引こうかどうか迷っているときに、手札を全て見せるバカはいないわけでしょ? となれば、この辺のハナシについてここまで言い切ることなんて絶対できないと思うけどなぁ。
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で、この報告書と、反対派が上梓している数多の書籍のなかで最も有名な『TPP亡国論』(中野剛志著。集英社新書)を読んだうえで、手前がTPP交渉参加の是非について思うことは――
①交渉参加には賛成
②条件次第では交渉を降りる
③交渉参加=条約批准の姿勢で臨むのであれば反対
――です。それぞれの理由については、①は「とりあえず参加して具体的な条件を知り、踏み込んだ交渉をすることは大切だよね」です。例えば、A社、B社、C社が合併するというハナシがあったとしてですね、A社とB社が合併交渉をしているとき、交渉に参加していないC社が合併条件を知ることは不可能なわけですよ。条件を知りたいのであれば、合併交渉に参加する以外ないわけですから。TPPについてもこの辺のハナシは本質的に同じことです。
この合併交渉の喩えバナシは②にも通じることで、A社、B社の合併交渉に参加してみたものの、合併条件がC社にとって過酷なものになりそうで、交渉しても埒が明かないとなれば、「ウチにとって良いハナシじゃないし、今回は縁がなかったことで」ということで降りるのは当たり前にあること。実際、合併寸前までいって破談になり、いまも友好関係にある企業なんてたくさんありますからね。
というハナシをすると、反対派(一部賛成派)は「一度バスに乗ったら降りれるわけがない。よしんば降りたとすれば、日米同盟が危うくなる」的なハナシをしますが、何をバカなことを言ってるんですか! 当blogで何度も何度も繰り返し書いている通り、経済と安全保障は全然関係ないんですよ。
一々説明するのもバカらしいのですが、アメリカにとって日本は「中国(旧ソ連)に対する盾」であって、この所与条件は1000年後も変わらないわけです。実際、日本と中国は聖徳太子が隋の煬帝に対して親書を送って以来、今日まで緊張状態にあるわけですから。しかも、戦後だけを見ても繊維、自動車、牛肉……etcといまのTPP以上に深刻な貿易論争を繰り返してきたにも関わらず、安全保障体制が揺らいだことは一度もないわけでね。
変わるとすれば、日本が中国と手を組んで「アメリカに対する盾」になるしかないわけですが、現実的な問題としてこれはあり得ないんですよ。だって、これをやるってことは、アメリカともう一戦することを覚悟するってことなんだから。で、日中vs米で世界大戦をやったとしても、ワシントンに日章旗を立てられない(=逆に東京、北京に星条旗を立てられることになる)んですから。
最後の③については、敢えて説明するまでもないでしょう。これを是とするのであれば、最悪、「どんな無茶な条件を提示されても飲まなきゃならない」ってことだからね。となれば、現在、民主党政権が進めているTPP交渉参加に向けた一連の動きについては、「手前は反対」と言わざるを得ません。
もうね、残念ながら反対ってくらいな気持ちですよ。手前の心根は中学生の頃、勤医協病院で共産党員の学生と日米安保の大論争をして以来、「自由主義マンセー! 社会主義は死ね! 氏ねじゃなくて死ね!」ですから、本音のところではTPP交渉には「是非、参加すべし!」なんですよ。でもねぇ、最初から「参加=条約批准。交渉離脱はあり得ない」という姿勢で臨むのではねぇ……。こんな不可逆的なハナシになるのであれば、取り返しのつかない事態に陥るよりは何もしない方が10倍マシってことでしょ?
つまるところ民主党政権の、TPP交渉参加にあたって「参加=条約批准」とか前原(バカ)みたいに「交渉からの離脱もあり得る」みたいな、自分の手札を全部オープンにしてババ抜きをするような無能さにダメ出ししているってことです。こんなもん、余計なことは一切言わずに「交渉にあたっては白紙で臨みます」ってことだけを繰り返していってればいいだけなんだから。なんで、こういう初歩的な腹芸すらできないのかねぇ……。
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