4月27日に行われた講演会の私家版メモです。手前がおもしろいと感じたこと、興味深いと思ったポイントのみを取り上げたメモであって、講演会の採録ではないので悪しからず。
◆演題:「放射線と放射能」
◆演者:千葉大学大学院薬学研究院教授、アイソトープ実験施設長・荒野泰氏
・海外に行くと、「日本は世界で唯一の被爆国。だからこそ放射性物質に関する教育レベルの高いのでは?」と聞かれることが多い。しかし、教育レベルが高ければ、福島県民を差別するようなことが起こるだろうか?
・放射線とは、不安定な原子核が安定する際に放出される粒子や電磁波のこと。放射線の相互作用により物質の性質は変化する。放射線の電離作用により遺伝子は損傷してしまう。
・高Let放射線=α線、β線、中性子線。低Let放射線=γ線、X線。高Let放射線は透過性が低い代わりに、透過した物質に高いエネルギーを付与する。低Let放射線はその逆(つまり、モノをすり抜けない放射線=高Let放射線を浴びるのは、より危険性が高いということか)。
・放射能とは、放射線を出す能力の大小を指し示す言葉。単位はベクレル(Bq)。すなわち、「能力」であって「モノ」ではない。放射線を出すモノは「放射線物質」。
・半減期とは、放射性同位体の数が半分になるまでの時間のこと(つまり、半減期が短いということは、「短い時間に強烈な放射線を放出する」ってことね。反対に長いと「長い時間をかけてじわじわ放射線を放出する」と)。
・放射線自然被曝量の世界平均が2.4シーベルト/年(Sv/y)。高いところでは10 Sv/yのところもある。しかし、がんの発症率が顕著に多かったり、健康被害があったりするわけではない。また、人間は誰もが体内に放射性カリウムを持っている。日本人力士最重量(体重277kg)だった元力士の山本山は、体内で17183Bq(!)被曝していることになる。
・放射線のホルミシス効果。低容量の放射線を浴びると良い影響が出るという研究もある。わずかな放射線を浴びることで、細胞が積極的に応答し、体の修復機能が活性化する――という仮説だ。ラドン、ラジウム温泉の効果の一端かもしれない(筋肉増強のプロセスと同じなので信じそうになるも、微量でも良くないという研究結果もあるんだよなぁ。その辺のことも踏まえて言っているのかも知れないけど)。
・放射線物質は「ほこり」と同じ。はらえば落ちるし、他人にうつるものでは全然ない。それなのに福島県から来た人を差別したり、ガイガーカウンターを当てて証明書を出したりするようなことは、己の無知をさらけ出すだけの恥ずべき行為だ。
◆演題:「放射線とからだ」
◆演者:独立行政法人放射線医学総合研究所上席研究員・小泉満氏
・ヨウ素とは、ハロゲン元素の一つ。沸点は184.3℃なので、煮沸すると濃度が高くなる。ヨウ素を体内に取り込むと、30%は甲状腺に集まり、20%は糞便とともに排出され、50%は尿とともに排出される。
・このように甲状腺に集まることから、60年以上前から甲状腺疾患の診断と治療に使われてきた。放射性ヨウ素では、I-123がβ線を出さないのでシンチグラフィに使われ、いま話題のI-131はシンチグラフィと治療に使われている。
・放射性ヨウ素の体内半減期はどのくらいなのか? これまでの研究では7.6日~7.2日とされているが、甲状腺亢進症の治療にあたってきた私自身の経験からは6日となる。もちろんこの日数には個人差がある。なお、甲状腺亢進症患者の場合は、健常人よりも早くヨウ素が排出されることが多い。
・甲状腺亢進症でI-131を治療に使う場合は、組織に放射線照射(内照射=内部被曝)する。これはヨウ素が甲状腺だけに集まることを利用した治療方法だ。40~100グレイ(Gy)を目標に照射する。この治療を実施した場合の被曝量は――
全身=2~20mGy
血液=4~40 mGy
骨髄=2~20 mGy
生殖腺=3 mGy
――となる。副作用についてみると、白血病を含めたがんの発症については、有意な増加が見られていない。
・ハンフォード再処理工場では、多くの周辺住民1944年から57年までI-131のみを長期にわたって内部被曝した。放出線量の総量は740万キュリー。住民の被曝量について、平均は174mGy、中央値で97mGyというものだったが、甲状腺がんが有意に増えたわけではなかった(なんとなく大変なことになっていたんじゃないか……と思っていたけど、長期追跡調査の結果はシロだったのね?)。
――全体に『人は放射線になぜ弱いか・第3版』(近藤宗平著。講談社ブルーバックス)以上の情報はなかった。小泉氏のチェルノブイリの報告は面白そうだったものの、レジュメなしであんな小さい英字を羅列したスライドを次から次へと繰り出されてもなぁ。
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