2011年4月25日月曜日

放射能を正しく怖がってみる

原発事故と放射線物質の飛散を巡る報道を受けて、「朝起きたら鼻血で枕が真っ赤になっていた」「なんだかノドが痛いし、肌がちくちくする」とか言ってる人がいますが……もうね、アホかとバカかと。放射線物質が飛んできた→その影響でお身体が大変なことに! って言いたいのかもしれないけど、そんなこと絶対にあり得ませんから。てか、身体症状が出た時点で1カ月後には死ぬから。確実に。で、そんな急性症状が出るほどヤバい地域なんて、原発の建屋近くしかないわけでね。

ただ、手前も無知で無学な大人なもんだから、常に注意していなければ、とんでもない妄説に惑わされるかも知れない――ってことは自覚しているわけです。で、無知で無学な手前が「科学的思考をするための指針」として重宝している講談社ブルーバックス(『人は放射線になぜ弱いか(第3版)』、近藤宗平著)を使って、放射線を正しく怖がってみることにします。

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・自然におこる人の遺伝病の発病率について、優性遺伝病は約1%(新生児100万人に1万人)の割合で発現する。ヒトの遺伝的倍加線量が、マウスと同じように100ラド(シーベルト換算では1シーベルト=1000ミリシーベルト)であると仮定した場合、全住民が毎世代1ラド(0.01シーベルト=10ミリシーベルト)ずつ数世代にわたって連続して被曝したとすると、住民の遺伝病発生率の上昇分は1%の1/100。すなわち「100万人当り優性遺伝病の患者が100人増える」という計算になる。

・ヒトの優性遺伝病では、優性突然変異の遺伝子を受け継いでも、その15%くらいしか次代には発病しない。残りは数世代かかってほぼ毎世代、15%ずつ現れると推定される。したがって、1ラド(0.01シーベルト=10ミリシーベルト)ずつ連続して被曝した結果、次世代で増える優性遺伝病患者の数は、「100万人当り優性遺伝病の患者が100人増える」のうちの15%、すなわち15人と推定される。
(86~87頁より抜粋)

――つまり、10ミリシーベルト/毎時程度の被曝であれば、喫煙や飲酒よりも遥かにリスクが少ないということは確かってことだね。東京で観測された最大放射線量は3月15日のの0.809マイクログレイ/毎時(同日の平均値は0.109マイクログレイ。1マイクログレイ=1マイクロシーベルト換算。東京都健康安全研究センターより)なので、少なくとも「首都圏在住者においては、外出時に神経質になる必要はない」と断言できそう。

・原爆放射線をあびた人の次世代について、血液タンパク質(赤血球酵素、ヘモグロビン、血漿タンパクなど)30種の電気泳動毒性の異常を調べて、突然変異頻度が直接測定された。その結果、67万個の遺伝子座を調べて3個の突然変異が見つかった。一方、被曝していない人の次世代について同じ調査をした結果、47万個の遺伝子座を調べて3個の変異が見つかった。

・誕生期の異常、幼児期死亡、性染色体の異数体の出現頻度についても、原爆放射線被曝の次世代と、被曝していない次世代で比較して見た場合、有意な差のないことが明らかになっている。
(87~88頁より抜粋。元の論文は「Y. Yoshimoto, et al.:RERF TRI-91,RERF,Hiroshima, 1-27(1991)」)

――原爆放射線については厚生労働省の資料を参照のこと。放射線の影響という点では“一過性”の原爆と、“継続性”のある原発事故とを同列に論じることはできないだろうけど、40年以上の追跡調査の結果がこのようなものであったことは覚えておくべきことだろう。

・人体には必須ミネラルとしてカリウムが蓄えられている。これは日々の食事で摂取しているものだ。その量は体重の0.2%程度で体重50kgの人の体内には100gのカリウムが存在する。この天然カリウムの中の1/10000は放射能を持っている。つまり、人は誰でも0.01gの放射性カリウムを体内に蓄えているということ。

・放射能単位でいえば3000ベクレルの放射性カリウム40が体内にあるということ。3000ベクレルとは、毎秒3000個の割合で放射線粒子が発射されていることを意味する。放射線カリウムから発射されるのはベータ線が大部分で、10発に1発がガンマ線である。

・ベータ線のエネルギーは平均50万電子ボルト。体内で1個発射されると、細胞内に電離イベントを残しながら、平均約250個の細胞を貫通して消滅する。ベータ線の作用は、X線被曝と同じ二次電子の作用だ。つまり、体内で毎秒3000個のベータ線が発生しているということは、毎秒75万個ずつ細胞が被曝すると推定できる。

――何もしていなくても、体重50kgの人は3000ベクレル分の放射能を抱えているということ。さて、政府は葉物野菜について1kg当り2000ベクレル以上にまで残留放射能基準を引き上げたけど、こうして見るとこの基準はまぁまぁ妥当であることがわかる。ブロッコリーにしてもほうれん草にしても、一人一食で1kgも食べる奴はいないだろうし、よしんば食べたとしても「体重50kg(普通サイズの女性くらい)の人で、元々体内にある放射能が一時的に1.7倍くらい増える」となる。

もちろん、体内に蓄積する危険性も考慮する必要はあるだろうけど、化学物質のように末永く体内に留まるわけではない――半減期の短いものは放射線を放射しつくし、半減期の長いものはじわじわ放射線を放射しつつ体外に排出される――ので、そこまで気にする必要はないように思える。

もっとも、毎日毎日残留放射線基準ギリギリの野菜を大食い選手権の出場者のごとく食べていけば、遠からず何がしかの問題が出てくるかも知れない。ただしその場合は、「体内被曝」を心配するよりも、栄養バランスが崩れたことで罹患する「疾病」を心配すべきだろう。

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