12月も下旬に入ったので、一足早い感じですが下半期を振り返ってみたいと思います。「今年発売」じゃなくて「今年読んだ」というところに注意してください。
というわけで、早速発表。
★第5位:尖閣喪失(中央公論新社)
◆読書メーターの感想:尖閣問題にちょっとでも興味のある人は、2012年8月末までに読んでおきましょう。「いかそうめん」くらいに鮮度が命のネタなので、早いうちに読んでおくに越したことはありません。
*詳しい感想はこちらのエントリを参照のこと。正直、単純な面白さでいえば、ベスト5級ではなくてベスト10級ではあるんですが、話題性なども込み込みでランキング入り。↑の感想では、すでに読み頃を逸した感じになっていますが、さっきパラパラ再読した限りでは、来年夏くらいまでは面白く読めそうな感じです。
★第4位:文明と戦争(中央公論新社)
◆読書メーターの感想(上巻):タイトルに相応しい大部。枝葉と思われることも徹底して検証し、隙のない論理を地道に積み上げていくタイプの誠実な本であるため、わかりやすさは皆無。「文明」と「戦争」の両方に相応の興味がなければ読み進めるのは難しいかも知れない。また、新説、奇説の類もなく、通説を最新の研究成果と著者の推論で微修正及び補強していることがほとんど。個人的には「文明化の進展=戦争被害の減少」という当たり前のハナシを、徹底して数字で実証したところが一番面白かった。
◆読書メーターの感想(下巻):戦史や歴史について何か語りたい人にとっては基礎文献といっていいでしょう。あと、パラドゲーや、『Civ4』『Civ5』などを遊ぶゲーマーにとっては、MODの自作及び導入、縛りプレイのためのベースとなる“基礎的教養”を拡張する本でもあります。これを読めば、いつもプレイしているゲームの面白さが1.5倍増しになること確実です。ただし、学術論文の詰め合わせみたいな本なので、「ゼロから歴史を学んでみたい」という人には向かないかも(多分、『銃・病原菌・鉄』のがいいと思う。個人的には全然面白くなかったけど)。
*読書メモはこちら。感想も↑以上に付け加えることはありません。読み物としての面白さは皆無なので、オススメはしませんが、歴史好き、戦史好きであれば、絶対に手に取らずにはいられない本と思います。
★第3位:肩をすくめるアトラス(ビジネス社)
◆読書メーターの感想:もし高校生の頃に読んでいたら、完全に“信者”になっていた可能性が高い。それくらい感染力の強い思想小説。全篇、「極論極論アンド極論」で構成される世界観は歪で名状しがたい違和感しか感じられないが、一方で、極端に純粋だからこそ浮き彫りにされる「素朴なリバタリアニズム」に抗いきれないほどの魅力を感じたことも事実。ストーリーとキャラクター造形、演説で語られる思想については陳腐の一言。ただし、登場人物の会話で語られる言葉には名言級のモノが多数あり。30代以上の常識を持った大人にオススメしたい本。
*登場人物の言葉で最も気に入っているものを紹介。「人が『情がない』といって誰かを非難するときは必ずといっていいほど、その人物は正しいという意味なのです。その人物には理由のない感情がなくて、値しない感情を他人に与えはしないという意味よ。『感じる』ことは理由や倫理や現実に逆らうという意味なのです」(958頁)。この121字だけを読んでも、「ぐうの音も出ない正論の後に繰り出される、思い込みだけで断じられる極論」にクラクラするという稀有な経験を得られますからね。こういう読書経験は、普通の本ではなかなか得られないものと思います。大部中の大部ですが、年末年始にこれ一冊を読み切ろう! くらいの覚悟があるなら、現代人の基礎教養の一つとして一読されることをオススメします。
★第2位:(日本人)(幻冬舎)
◆読書メーターの感想:期待を裏切らない内容。久しぶりに読むに値する“日本人論”だった。常々、日本人には「法治」が根付いているわけではなくて「世間体」があるだけと思っていたけど、この考え方を突き詰めると、著者の主張(=日本人は世界屈指の世俗的&功利的な性格を持つ)になるということか。ローカリズムとグローバリズムの相関関係についての身も蓋もない解釈にも全然同意。
*「日本人論は例外なくクズ」という持論を改めさせた一冊。正直、大したことを書いているわけではないものの、書き方が圧倒的に上手いために、グイグイと説得されてしまいました。普通に面白く、知的好奇心を刺激される本なので、今回取り上げた5冊のなかでは一番安心してオススメできる本です。
★第1位:宙の地図(ハヤカワ文庫)
◆読書メーターの感想(上巻):傑作! ほぼ一発モノのネタであり書き方――強いて言えばシャマラン的な描き方――だった前作と同じように書き、なおかつ前作より面白い。下巻はどうなることやら。
◆読書メーターの感想(下巻):「計算され尽くしたご都合主義」で描かれる超展開の面白さは相変わらず。というか心底面白かった。ただし、この面白さは読書だからこそ経験できる類のものであって、映像化したら1/10くらいに減殺されてしまうのではないか? 前作を読んでおいた方が良いのは確かだが、普段あまり本を読まず、前作も未読という人であれば、本作から読むのが良いと思う。プロットが単純で見せ場が多く、展開が派手な分、非常に取っつきやすい。
*これはもう文句なしの1位。下半期に読んだ本のなかではダントツに面白かった。アタマをカラッポにして読むアクション小説として読んでも面白く読めるし、ラノベチックなロマン小説として読んでも面白く読めるし、本格SF大作として読んでも面白く読めるし、フィクション(小説、戯曲、講談etc)の構造に挑戦した実験小説としても面白く読めるし、前作で気持よく著者に振り回された読者が、再び気持ち良く振り回されるために読んでも面白く読める――という傑作。「計算され尽くしたご都合主義」(自分で書いていて何だけど、これ以上に的確な表現は思い浮かばない!)としか言いようのない、意図された緩さから繰り出される破天荒なストーリーテリングに乗っかる気持ちよさは格別ですよ。ただし、結構クセのある作風、文体なので、合わない人には徹底的に合わない可能性もあります。
――ギリギリ選外は『バカを治す』(適菜収著)と『スペイン内戦(上下)』(アントニー・ヴィーバー著)。年間ベストワンは『宙の地図』。これを読む前はダントツで『氷と炎の歌シリーズ』(ジョージ・R・R・マーティン著)でした。つまるところ『宙の地図』は、名作の風格すら漂う『氷と炎の歌』シリーズを超えるくらいの傑作! と信じさせるくらい素晴らしい作品ってことですよ。
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