2010年9月22日水曜日

池山隆寛、「ブンブン丸の『野村野球』伝道」:その1

◆目次
・第一章:再会(引退後、野村克也からコーチに誘われる)
・第二章:運命(ドラフトから新人時代)
・第三章:喜び(野村ID野球の薫陶を受け日本一に)
・第四章:葛藤(フルスイング禁止令と野村辞任)
・第五章:屈辱(怪我と二軍落ち、年俸半減)
・第六章:決断(引退の決断と引退試合の思い出)

ヤクルトの小川淳司監督代行が来季より監督に就任することが正式に発表された。遡る9月19日には、池山隆寛が打撃コーチとして入閣するというハナシがあったが、ここまで音沙汰がないということはただの新聞辞令だったのだろうか。池山の全盛期を知るものの多くは、「ブンブン丸と言われて振り回すだけの選手だった奴にコーチなんか務まるか!」と思っているのかもしれない。しかし、池山の著書を読む限りにおいては、少なくともダメコーチ(例:中畑清)で終わるような人間ではなさそうに思える。

プロ野球のコーチに必要な資質とは何か? と問われれば、十人十色の答えがあるだろう。有無を言わせぬ実績、高度な打撃理論、若い選手と同じ目線に立てる謙虚さ……一つ一つ挙げていけばキリがないが、手前が考える最も必要とされるファクターは、「二軍で辛酸を舐めた経験」だ。とりわけ一流選手でありながら、二軍で下積み経験をしたことがあったり、ケガ以外で二軍に落とされた経験を持つOBは最も適任だろう。

よく「名選手は名監督にあらず」といわれるが、この言葉は長嶋茂雄や王貞治のように、ほとんど二軍生活をしていないOBにのみ当てはまる言葉だろう。彼らはプロ野球の底辺を知らず、自らと同じレベルの選手にしか技術を伝える術を知らないのではないだろうか。

「教える側が頭のなかで描いている技術レベルと、聞きにくる側が求めているそのレベルにはギャップがある。だいたい、彼らは私たちが考えている水準よりも低いところを、念頭においている。だから、自分が考えていた程度のことを学ぶと満足して帰っていく。だが、それは教える側からすると、目指しているレベルの何段も下の段階のことが多いのだ」(『勝負の方程式』落合博満著。106頁)

落合の言うように、底辺のレベルを知らなければ、若手に教える際にも現状のレベル以上のことを求めがちになってしまうのだろう。かつて王が駒田徳広に一本足打法を伝授しようとして失敗したときのように、当人の資質、現状のレベルに合わない指導の押し付けは、双方にとって不幸な結果に終わることが多いといえよう。

この点池山は、高卒で入団後3年下積みを経験し、1500安打、300HRを達成している一流選手であることに加え、ホームランバッターからアベレージヒッターへ打撃スタイルを転換した経験もある。いわば、ありとあらゆるレベルとタイプのバッターに対して指導できるだけの経験を持っているということだ。

ただ、経験だけあれば良いコーチになれるわけではない。その経験を適切に伝えられる人柄やコミュニケーションスキルがなければ元の木阿弥だが、第五章:屈辱で綴られているエピソードを読むと杞憂といえそうだ。
(つづく)



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