2010年10月21日木曜日

中村紀洋、「noriの決断」:その2

「そんな僕にファームのあるコーチが、『今の打ち方では一軍レベルでは通用せん』と、いきなり言ってきたのです。そこで素直に頭を下げて、そのコーチの言うとおりに変えれば、そのコーチは満足したのかもしれませんが、性格的に、自分が納得できないことに対して素直になれないタイプですから、そのコーチに面と向かって『じゃあ、1回上げてください。一軍バリバリのピッチャーのスピード、キレを見せてください』と言い返しました。さらに『打席に立ってみて、自分の打ち方では無理だとわかれば、そこで考えて対応するのがプロじゃないんですか』とも続けたのです。まさか反論されるとは思っていなかったのでしょう。コーチは怒りで顔を真っ赤にし、『もうお前には教えん!』と一言。僕も『わかりました。自分ひとりでやります』とやり返して“決裂”」
「~~中略~~僕としては、それくらいの覚悟を決めてやらないとこの世界でやっていくのは無理という思いがあったのです」(97~98頁)

高卒一年目、18歳のノリがとった行動だ。<指導拒否>をして成功したバットマンといえば落合博満が筆頭に上げられるだろうが、彼が<指導拒否>をしたのは25歳のときのこと。未成年でありながらここまで言い切ったノリは、ある意味で落合以上の“タマ”だったということだろう。

こうした<指導拒否>は、多くの場合「ヒロイックな行動」としてファンに賞賛されることが多い。また、少なくないファンが落合博満やノリ、イチロー選手のような一握りの選手だけが、<指導拒否>という思い切った一手を打てると思っているようだ。ノリ自身も同じように考えているといっていい。

「そのコーチのことではないですが、実際の話、コーチにフォームをいじられて結局元の勢いのあるボールが投げられなくなったという投手は結構いますし、打者にしてもそれは同じ。一流といわれるような選手には共通する頑固さというか、こだわりがあるもの。逆に、せっかくいい素質を持っていても、素直すぎる選手はやっぱり伸びない人が多い。これは僕の経験からそう思います」(99~100頁)

しかし、<指導拒否>をする選手は決して一握りの選手だけではない。実際には少なくない選手がコーチの言うことに唯々諾々と従わず、自分の腕一本で道を切り拓いているものだ。つまり、<指導拒否>それ自体は、そこまで珍しいものではない。

ではなぜ、落合やノリ、イチロー選手のような一握りの選手の<指導拒否>だけがクローズアップされて、それ以外の選手、OBのそれが目立たないのかといえば、答えは簡単で<指導拒否>をしたもののプロで芽が出ず、マスコミに取り上げられなかったからだ。落合、ノリ、イチロー選手の陰には、コーチの言うことに逆らった結果、チャンスを与えられず、そのままフェードアウトした数多の選手がいるということ。

では、ノリとその他の選手を分けたモノは一体何なのだろうか?
(つづく)

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