2012年5月24日木曜日

今年上半期で最高に面白かった野球本、『2番打者論』

去年11月6日、ナゴヤドームで行われたCS第5戦で放たれた井端弘和選手の2ランHR。0-0の6回裏、1死1塁という場面で迎えた打席だっただけに、見ていた人の99.9%は「バントだろ」と思っていたなかで、ものの見事にレフトスタンドに叩き込んだシーンについて、翌日のスポーツ紙はこぞって「館山の失投を見逃さなかった井端の技」と解説していたものでした。

が、それは違う。実は落合博満監督から「打て」のサインがあったんよ。で、ホームランをかっ飛ばすまでに、赫々云々こういう読み&伏線を張り巡らせた結果、打つべくして打ったんですよ――という痺れるエピソードから始まる『2番打者論』(赤坂英一著。PHP研究所)。

赤坂氏の前著『プロ野球 二軍監督』(講談社)がとても面白かったので、著者名を見ただけでジャケ買いするつもり満々だったんですが、実際に立ち読みで↑のプロローグを読んで、「こりゃ昼飯抜いても買うべき本だ!」と決め打ち、仕事先でのアポイントメントの時間まで1時間余あったので、喫茶店でブラッドオレンジジュースを飲みながら一気読みしました。

で、結論からいえば「これは面白いわ!」「落合ファンならまず買い」「てか、スポーツノンフィクションとしても年に5冊のレベル」です。何よりテーマが素晴らしい。「プロ野球選手やOBが、2番打者というポジションについてどのように考えているのか?」ということについては、案外、知られていないし、知る術もなかったですからね。

というのも、エースや4番打者のようなスター性のある選手であれば、インタビューやTV出演、自伝などで、その考えを知ることが多いんですが、2番を打つような選手は、多くの場合、世間的に地味であることが多く、↑のような機会はあんまりないわけですよ(だからこそ数少ない例外である辻発彦の本はベラボーに面白い!)。監督の立場から2番打者について語るものは多いのですが、これも当事者のハナシではないですからね。

で、現役選手では2番打者の代名詞的存在となっている井端選手に始まり、90年代屈指の2番打者である川相昌弘、左打ちの安打製造機にしてセーフティバントの名人だった異色の2番打者だった新井宏昌、典型的な攻撃的2番打者の栗山巧選手と、攻撃的2番打者の嚆矢だった豊田泰光。次代を担う2番打者と目される田中浩康選手と本多雄一選手に、メジャーも経験した田口壮選手といった選手、OBのインタビューを通して――

・果たして2番打者は右打者が良いのか? 左打者が良いのか?
・右打ちの必要性と限界
・ゲーム展開の読み方とゲームメイクのあり方
・セイバーメトリクスと日本式野球と2番打者に必要な資質

――といった大きなテーマにも果敢に切り込んでいるわけです。文中におけるデータと証言、著者の主観を取り上げるバランスも良く、何より読み物として面白い。スポーツライターであっても、金子達仁(笑)みたいにポエティックなことを書かなくたって、読者を唸らせる文章は書けるということの、良い見本といっていいでしょう。

あと、落合ファン的には――

・「今日の収穫はサードゴロ」の真相(証言つき)
・川相のポジショニングを褒めていた中日時代の落合
・新井のセーフティバントを見破っていたロッテ時代の落合

――といったエピソードが出てくる(というか、全編に渡って落合はそこかしこに出てくる)ので、この辺を立ち読みで拾い読みするだけでも満足できるかと思います。

正直、著者の赤坂氏に対しては、元日刊ゲンダイの記者という肩書きや、原辰徳と川相昌弘を扱った既刊2冊の“裏話的な内容”に対する偏見から、常に色眼鏡をかけてみていたんですが、前著と新刊の2冊を読んで考えを改めました。もう色眼鏡を外すことにしますよ。



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