・精神分析家は、症状には必ず心理的な原因があると考える。症状があるからトラウマがあると見立てる。そして、多くの場合、彼らが持ち出すのは「家族関係の問題」だ。小説や映画では、こうした因果律のテーマが繰り返し語られているが、こうしたことが原因で統合失調症や躁うつ病を発症することは稀だ。
・唯一の例外はPTSDだが、これも死の恐怖に直面するというめったにない経験に起因するものだ(殴られただけでPTSDになるわけではない。マスコミはこの言葉を安易に使いすぎている)。
・精神症状を惹起する可能性のあるものは、ごく直近の重大なライフイベントのみ(解雇、離婚、親の死etc)。精神分析による「トラウマ理論」は誤ったロジック。
・うつ病を「心のかぜ」というのは誤り。治療を受ければ簡単に改善する疾患ではない。SSRIは、うつ病に対して60~70%の有効性が見られることが臨床的な検討から明らかになっており、かつ過去の薬より副作用が少ないことは確か。しかし、効果が抜群というわけでは決してない。長期間、SSRIを投与し続けても病状が悪化するケースは数多くある。
・自称アスペルガー症状群が増えてきている。成人のアスペルガー症候群でよく見られる症状として、ネットでは次のようなものが紹介されている。
●相手の言葉のウラがわからない。表情が読み取れない。
●対人関係が苦手で、友人ができない。職場で孤立している。
●自覚はないが、突然きれたり、きついことを言ったりする。
●興味のあることを一方的にしゃべり、その場の空気が読めない。
・しかし、このような症状の内容は、かなり多くの人が感じているものだ。その人を取り巻く状況によって生じることも多い。したがって診断の決め手にはならない。マスコミが話題にすることで、普通の人が勝手に自己診断して“誤診”する人が増えた。マスコミによって新しい病気が作り出されているといっていい。
・対人関係の問題は多くの人が悩むもの。ただ、その原因には、単に本人の能力不足に過ぎないこともある。アスペルガー症候群ではないか? と精神科を受診した40代男性のケース。本人の話では職場の対人関係が苦手でストレスを感じ、職を転々としたという。で、WAISという標準的な知能テストをした結果、IQは77しかなかった。
・つまり、知的レベルが低いために能力的に仕事をこなせず、職場で浮いた存在になっていただけのこと。アスペルガー症候群という病名は、この男性のような人々に社会適応が不良であることに対する免罪符を与えている。
・製薬企業はサイエントロジーに及び腰。著者は精神科関連学会でうつ病治療のシンポジウムを企画し、ある抗うつ薬メーカーに出席を依頼した。抗うつ薬に対する不当なバッシングに対する会社側の意見を聞きたかったからだ。しかし、会社側から出席を拒否された。その理由として会社側はサイエントロジーの問題をあげた。公開の場で会社としての意見を言うと、サイエントロジーから批判され、訴訟に結びつきかねないからだという。
――スタンスは素晴らしいが、論証のツメが甘くて全体的な内容には不満が多い。それにしてもサイエントロジーはそこまでメジャーなものになっているのかねぇ? 著者によれば、日本のマスコミにもサイエントロジー信奉者がいうという「ウワサ」があるとのこと。立川談志師匠の言葉を借りれば、「ウワサってのはねぇ……う~ん、ほとんどホント!」ということになる。本当にホントだとしたら、これ以上怖いことはないね。
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