2012年7月7日土曜日

2012年上半期に読んだ本・ベスト5?

7月になったので上半期を振り返ってみたいと思います。「今年発売」じゃなくて「今年読んだ」というところに注意してください。なお、タイトル末尾に「?」がついている理由は後述。

というわけで、早速発表。

★第5位:つぎはぎ仏教入門(筑摩書房)

◆読書メーターの感想:久しぶりに呉先生の本気が炸裂した一冊。ファンなら必読モノだし、そうじゃない人でも確実に知的興奮が十二分に味わえる。コラムのキレも一々素晴らしい。

*ここしばらく、手前にとってはガツンと来る面白さの新刊がなかった――なんというか過去のネタの再生産とか連載の再録的なものが多くて……――呉智英先生だけど、やっぱり本気を出せば凄いということを再認識。これだけ正確にかつわかりやすく物事を説明できる人は、そう多くないもの。とりわけ宗教については、正確でもなければわかりやすくもない説明(例:昨今ベストセラーになったキリスト教を巡る対談本)しかできない人が多いですからね。



★第4位:池田屋事件の研究(講談社現代新書)

◆読書メーターの感想:骨太で実証的。池田屋での会合のテーマは「古高俊太郎の奪還」「中川宮の暗殺(焼討ち)」。で、中川宮焼討ちの謀議は早くから噂として漏れ、かつ尾鰭がついて、「京都での放火」「帝の動座」というハナシとなった。これ自体は古高の逮捕前から広く知られており、古高逮捕で事態が切迫していると見た一会桑は、長州との戦も辞さずの覚悟で不逞浪士取締りに動く――と、子母沢寛以来の通説を徹底的に打破。古高が重要人物であった(毛利父子の親戚で父親は梅田雲浜と交流があった)ということだけでも目からウロコなのに、それ以上にインパクトのある説がバンバン証明されていくのだから、面白くないわけがない。
~~都築注:読書メーターの感想欄は字数制限があったため、ちょっと書き足しました~~

*実は去年、新刊で出ていたときにタイトルだけは承知していたんですが、こういう「●●の研究」という捻りのないタイトルで、かつ、少なからずトンデモ本の紛れている講談社現代新書というレーベルであることに加え、著者も若くて知名度がなかったものだから、「これは触らぬが良い」と当て推量してスルーしていたんですが……。このあいだ、たまたま図書館で目にして、借りる本の員数合わせ(ホラ、1~2冊しか借りないと何か損した気分になるじゃないですか!)で借りて読んでみたら冒頭から超面白かったという。ここで得た教訓は、「タイトルとレーベルだけで判断してはいけない」「冒頭1~2ページは立ち読みしてから判断すべき」「著者が若いからといって、必ずしも軽率な修正主義者というわけではない」の3点。ともあれ、幕末に興味のある人にとっては、読んでおいて絶対に損のない一冊と思います。



★第3位:武田遺領をめぐる動乱と秀吉の野望(戎光祥出版)

◆読書メーターの感想:歴史読み物としては今時珍しい「まともで面白い」本。丹念に一次資料を精査したうえで、思いつきや想像による記述を意識的に避け、かつスリリングに歴史の流れを記述する――というウルトラC級の難しいことをやってのけている。戦国時代の歴史読み物としては、ここ数年読んだなかで一番の大当たりだった。良書。

*平山優氏の一般向け書籍の既刊全てを含んでの順位。↑の感想は、全ての本について言えます。今年上半期最大の収穫は、この著者の存在を知ったこと。実証的で新たな知見満載であるにも関わらず修正主義っぽくなくて、かつ、文章が非常にこなれていて読み物としても面白い。著者の研究範囲である「戦国時代の甲信地方」に関する著書しかないけど、この領域――武田信玄とか真田一族とか――にちょっとでも興味があれば、間違いなく夢中になって読めるはず。




第1位:氷と炎の歌シリーズ(早川書房)

◆読書メーターの感想:複数刊にまたがるので割愛。

*『ぼくは王さま』に始まって『指輪物語』から『エルリック・サーガ』『ハリー・ポッター』に『十二国記』、『デルフィニア戦記』etcまで、これまでの人生で古今東西いろいろなファンタジー小説を読んできたけど、自分にとっては、これが歴代ナンバーワンかなぁ。ハマり具合でいえば、中学生の頃に読んだ『太陽の世界』(半村良)の方が上だったけど、あれはSFだし。まぁ、典型的ファンタジー小説というよりは、中世欧州を舞台にした時代小説に近いテイストなので、剣と魔法とドラゴンとお姫様と魔法使いが出てきてくんずほぐれつ……を期待している人には徹底的に向かないかも。もちろんファンタジー小説なので↑のキーワードは全て出てくるけど、あくまでも添え物でしかなくて、メインは『仁義なき戦い 代理戦争』ライクな野望陰謀殺し合いだし。

最後に、これから同シリーズに挑戦する方に向けて手前なりの注意点をいくつか。

・読み始める前に、巻末の人名事典を読み込む。ほんの少しネタバレ気味ではあるものの致命的なネタバレではないので無問題。というか、暗記するくらいまで読み込んでおけば、読み始めた後の理解度が5倍くらい違ってくる。

・地図必須。添付の地図をコピーするなりググってから適当な地図を印刷するなりして手許に置き、各領域と地名、実効支配している貴族の名前をアタマに叩き込んでおく。

・第1部の前半1/3は設定や人物の説明が軸なので、正直、そこまで面白いわけではない。というか、第4部まで読んだ経験からいえば一番つまらない。でも、そこを我慢してクリアすれば、めくるめく陰謀と裏切りとチャンバラと戦争の世界が待っているので、途中で挫折しそうになったときは、「これも一つの精神修養」と思って読み進めるべし。

・アメリカの作品らしく、人物や情景描写は非常に精緻。国内ベストセラーに慣れ親しんだ人にとっては、くどく感じる――手前の感覚ではスティーヴン・キングの1.5倍くらい細かい感じ――かも知れない。そんなときは、セリフだけをナナメ読みして先を進めるのも一つ手。頑丈でかつロジカルに構成されている作品なので、これくらい乱暴な読み方をしても全然大丈夫。

あと、現在邦訳されている作品には、「旧翻訳版」と「新翻訳版」があって、固有名詞が結構異なります(ケイトリン→キャトリンetc)。「新翻訳版」は2部まで刊行され、近々3部も刊行されるはずなので、これから読む人は「新翻訳版」にすると良いでしょう。といっても、巻末の人名事典と地図をしっかりと読み込んでおけば、翻訳の違いに右往左往されることはないと思います。



――「ところで第2位はどうしたの?」という方へ。実のところ2012年上半期は『smallville』や『CHUCK』を見たり、『Vic2』や『Skyrim』をやるのに忙しくて、あんまり本を読めなかったんですよ。実際、新刊フィクションなんてほとんど手にしてないけど、これだって「海外ドラマで浴びるほどフィクションを視聴してるんだから、わざわざ読む必要もないわな」ってな感じで読んでなかったわけです。で、改めて振り返ってみると、ベスト5候補を4つしか挙げられなかったので、「無理にもう一つを取り上げるより、4つの候補で優劣をつけるのがいいわね」と思い、↑のようになった次第。で、2位がないのは『氷と炎の歌』が年間ベストワンクラスに抜けていたからです。

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