・「中国がアメリカ経済(=世界経済)を人質にとっている」が故に、中国が尖閣諸島に奇襲上陸したら、日本は尖閣諸島奪還を米国に制止され、結局これを喪ってしまう。
・こうした事態を防ぐ為には、日本が先に尖閣諸島に人を置けばいい。しかし、中国を下手に刺激したくない米国は許さない。もし、紛争となっても日本のケツ持ちをしないだろう。
――という“不愉快な未来”が来るとしましょう。だったらどうすればいいのか?
なんだか堂々巡りなハナシになってしまいますが、結局のところ正解は越後製菓! ではなくて「徹底的にエスカレーションする」しかないと思います。
尖閣問題を巡る大石氏の考えに対して、手前はほとんど不同意なのですが、唯一認識が一致しているのは、「中国は日米と全面戦争するつもりはサラサラない」ということです。で、この認識が正しいのであれば、「尖閣問題を発展させれば全面戦争になる」ということを中国が認識すれば、冒険的な外交はできないということになりましょう。
「いやいやいや。米国なしで中国には勝てないでしょ。もし、中国とガチで戦ったらどーすんの?」
いえいえいえ。日中戦争が起きても中国は北九州どころか、どの離島にも一人の兵隊すら上陸させられませんて。だいいち本当に日本の離島に兵隊を上陸させられるだけの空軍&海軍力があったら、とっくの昔に台湾を併合しているでしょうよ。単純な戦力のぶつけ合いで日本を負かせるのは、いまも昔も米国だけです。怖いのは核ミサイルだけど、もし一発でも打った日には「世界vs中国」という構図になることは必定なので、いずれにせよ日本に勝つことはできないでしょう。
もちろん、米国をアテにしないで戦争するのであれば、核ミサイル一発くらい(=数万人単位の犠牲)の被害を覚悟しておく必要はあります。でもまぁ、このくらいの覚悟はどの先進国の国民でも持っているものですからね。そして、国民がこのくらいに腹を括れているのであれば、尖閣諸島に日本人を置くこと(=それに伴う中国の脅迫と間接的な実力行使による被害)も容認されるでしょう。
ではどうすれば国民が腹を括れるようになるのか? というハナシになると、ちょっと手前の手には余ります。手前の考えは、当blogで何度も何度も書いている通り、「日米安保条約を片務条約から双務条約に結びなおす。もしくは改憲する」(太田述正氏の受け売り)というものです。ここから直さないと、多分、国民の意識だって変わらないでしょう。
大石氏は、尖閣諸島を喪失することで国民が目覚めるかも――ということを示唆しているようです。ただ、手前に言わせれば、「東日本大震災が起きても目覚めなかったんだから、多分、そんなことじゃぁ目覚めないんじゃないかなぁ」ですよ。こういう、「よく見ろ日本人、これが戦争だ(笑)」的なハナシは、70~80年代のB級サスペンスで濫用された「日本を陰で支配する“鎌倉の老人”」と一緒に、まとめて不燃ごみの日に出してもイイ頃だと思います。
と、書いているうちに何だか文句ばっかりつけているような感じになってしまってアレですが、ここまでのハナシはあくまでも、小説を読んで改めて尖閣問題について考えたことを、リアルタイムで思いつくままに書いただけのことであって、小説それ自体に文句をつけているわけではないので悪しからず。
最後に『尖閣喪失』についての感想を書きましょう。
手前が思う『尖閣喪失』の美点は、デカい嘘と小さな真実と真実っぽい嘘のブレンドの上手さにあります。デカい嘘は、言うまでもなく「中国が尖閣諸島を奇襲する」こと。これ、現実にはあり得ないですからね。特に奇襲という手段は。漁船であっても中国の沿岸に10隻集まった時点で、日本(米国)にバレますから。
そんなことは大石氏も百も承知で、この大きな嘘を成立させるために、小さな真実(レーダーや衛星の性能、中国軍の組織や意思決定過程etc)を立て続けに繰り出し、ところどころに真実っぽい嘘(これは実際に読んで確かめてください)を織り交ぜながら、「この世界ならば、こういうことがあっても不思議じゃない」と読者を説き伏せるわけです。
この辺の手腕は実に見事で、日本側が仕掛けるある“奇手”についても、冷静に読んでいたら絶対にあり得ない! と冷めてしまうはずなのに、大石氏の巧みなストーリーテリングに掛かってしまうと、「この手があったか!」と思わず膝を叩きまくってしまうほど夢中になってしまうわけですよ。一読後、頭を冷やした後に、「ありゃぁねぇだろ!」とツッコミを入れるところまでを含めて、上手いこと著者に振り回されて、実に心地よい読書体験ができたと満足しているところです。
ともあれ、尖閣問題がヒートアップし、国会が揺れ動いている――という、2012年夏の日本をそのまま舞台にしたんじゃないか? というくらいにタイムリーなネタ満載の小説なので、もし読まれるのであればお早めに。
・追記:あと、尖閣問題の本質を手軽に知りたいのであれば、兵頭二十八師の『日本人が知らない軍事学の常識』を読まれることをオススメします。
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