2012年10月9日火曜日

*読書メモ:文明と戦争(下)~その2

・軍隊を巡るあらゆる統計データの裏にある単純な事実は、「あらゆる兵器は高価であるが、国家の陸・海軍費のうち、兵士や水兵の賃金及び糧食費が最大の経費項目で、実際、その大半を占めている」ということ。年を追うごとに増える軍人に、継続して賃金を払い、糧食を供給することこそが、「軍事革命」の主要な経費だった。

・国家が持てる軍隊の規模について、純粋な職業軍人の人数の持続可能な上限は、歴史上全人口の約1%程度に止まる。グスタフ・アドルフのスウェーデンは、“バルト帝国”で換算したうえで多く見積もって300万人いたと考えられるが、ピーク時には18万人(人口の6%)もの軍隊を維持した。これが可能だったのはドイツやバルト海沿岸に“寄生”(=現地での効率的な略奪)して、コストの1/4を賄いつつ、フランスから多大な支援を得ていたがため。

・同じようにフリードリヒ大王のプロイセンも、500万人の人口に対して平時で15万人、7年戦争末期で25万人(人口の3~5%)の軍隊を維持したが、これも半職業兵士(カントン制度)などの軍事優先の国家施策を貫徹したことと、何よりイギリスからの多大な援助金を得ていたがためだ。

・フランスもアメリカも、決して「ベトナムで勝てる見込みがなかった」わけではない。イギリスもアイルランドを屈服させることは不可能ではなかった。軍事力では隔絶しているため、究極的には銃剣下でジェノサイドを行なえば、先進国(=自由民主主義国家)はいかなる後進国でも屈服させることができる。

・また、自由民主主義国家は対反乱戦争で残酷であり、対外戦争でも辛抱強く戦ってきた。長期化した消耗戦に民主主義体制が耐えられないというのは大嘘。二つの世界大戦において、過酷な消耗戦は自由民主主義国家が選んだ戦略であったのに対し、開戦奇襲により早く決着をつけようとしたのは敵国側のドイツと日本だった。冷戦でもアメリカは物質的忍耐の戦いでソ連をしのいだ。

・ナチス時代はもとより、帝国主義時代のドイツもえげつない。植民地搾取ではベルギー、フランスの悪名が轟いているが、ドイツのアフリカでの振舞いは、植民地搾取という基準で見た場合ですら際立っていた。ドイツ領南西アフリカのヘレロ族の反乱(1904年)で、ドイツはヘレロ族を殲滅した。井戸を塞ぎ、住民を砂漠に追いやり、労働キャンプで死ぬまで働かせることで、8万人のヘレロ族を1万5000人まで減らした。

・ドイツ領東アフリカのマジ・マジ族の乱(1907年)でも、同様の殲滅をもって応じた。500人のドイツ兵からなる小部隊は、居住地や作物を徹底的に破壊し、25~30万人の現地民が死亡した。そのほとんどは餓死で、武装蜂起した者の10倍以上に上った。このようなジェノサイドの敢行は、技術的には難しいことではなく、反乱鎮圧の手法としては最高に効果的であることは間違いない。

・しかし、多くの自由主義者にとって、軍事力を用いた古い抑圧のやり方は受け容れがたいものであることが多い。結果、自らが課した非武装の人々に対する軍事力行使の規制によって、ほとんどの場合で成功する軍事作戦が最終的に無駄になってしまう。戦争を決定的に終了させるような勝利が、自ら課した規制の下で実現しないと悟ったときに、彼らは継戦に異を唱える。ただし、こうした戦争の大半は、自国の中核的利益には関係なく、経済的に重要でない辺境で行なわれてきた。

――以上、個人的に気になったところのみを、アトランダムにピックアップ。戦史や歴史について何か語りたい人にとっては基礎文献といっていいでしょう。あと、『CK2』『EU3』『Vic2』などのパラドゲーや、『Civ4』『Civ5』などを遊ぶゲーマーにとっては、MODの自作及び導入、縛りプレイのためのベースとなる“基礎的教養”を拡張する本でもあります。これを読めば、いつもプレイしているゲームの面白さが1.5倍増しになること確実です。ただし、学術論文の詰め合わせみたいな本なので、「ゼロから歴史を学んでみたい」という人には向かないかも(多分、『銃・病原菌・鉄』のがいいと思う。個人的には全然面白くなかったけど)。

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