2012年10月3日水曜日

私家版・兵頭二十八の読み方:その19

**「私家版・兵頭二十八の読み方」のエントリでは、日本で唯一の軍学者である兵頭二十八師の著作を、独断と偏見を持って紹介します**

昨日のエントリでは、草思社の著作に“共通”していることと、ここ最近念入りに言及している“ファクター”について指摘しました。今日は“共通”していることについて書きます。

手前が思うに、今年、草思社から出版した軍師の著作には一つの共通点があります。何かといえば、新ネタの含有量の少なさです。

「いやいや、新刊は機雷戦とかISRとか、新ネタ盛りだくさんだったじゃん!」

と言われれば、「仰るとおり」としか返せませんね。たしかに新ネタ盛りだくさんです。言葉が悪かったです。正確には、既存媒体で未発表である新ネタの含有量の少なさですね。このことは軍師自身も認めています。

「この本で説明し予言していることの半分くらいは、兵頭はすでにインターネット上のウェブサイト(複数)で、説明したり警告したことがある」
「しかし、そのアップロードは五月雨式。毎日それをチェックする手間をかけてくれるような人は、日本全国でも数百人くらいだろう」
「いつも特別なテーマばかりフォローしてはいられないという方々にとっては、その特別なテーマの書籍を購読することが、いちばん時間と労力の節約になるに違いない。いずれにせよ現代人の<時間>はタダじゃないのだ」
「まとまった情報を、人々が摂取しやすくパッケージするスタイルとして、こんにちでも、紙媒体の書籍は勝れているという証明に、本書もなってくれることを望みたい」(283頁)

まぁ、そうはいっても、他の作家や評論家の著作に比べると、十分に新ネタが多く含まれていたりするんですが、ここではあくまでも「これまでの軍師の既刊に比べて」ということです。実際、近作の『新訳 戦争論』や『新解 函館戦争』なんて新ネタだけで書かれたようなものですからね。

さて、草思社の既刊『日本人が知らない軍事学の常識』について、以前、手前はこう書きました。

>実のところ軍師は、「これまでに書いたことを繰り返し書くのは紙資源のムダ」と主張していて、これまでの著作は「既存著作と内容が被らないネタ」か「既存著作の主張を大幅にアップデートするネタ」をベースに上梓してきたわけです。ですが、今回の新刊では(2012年向けにアップデートされているとはいえ)「既存著作と内容が被らないようにする」という信条を、あえて封印しているように見えます。

>これが明確な意図によるものなのか否かはわかりません。ただ、15年来の兵頭二十八ファンとして思うことは、「20年近くのキャリアを振り返る良いタイミングで出た一冊ではないか?」ということです。

出版から半年経ちましたが、この見解はいまでも変わりません。むしろ、新刊において軍師が↑のように書いていたことを読んで、以下のような当て推量を思いつくに至りました。

すなわち軍師は、草思社で出版する書籍について、blogや雑誌などで書いた荒削りな新ネタを、兵頭ファンだけでなく、兵頭本を読んだことのない一般読者に向けて徹底的にソフィスティケートして書く――ことを狙っているのではないか? ということです。

実のところ、“軍学者”ではなく“作家”として<兵頭二十八>という著者を捉えなおしてみると、近年までは間違いなく「マニア向けの作家」でしかありませんでした。よく言えば「新刊が出れば絶対に購入する千人単位の熱烈なファン」を抱えているので、出版社にとっては「確実に数千部は捌ける手堅い作家」ではあったでしょう。しかし、翻ってみれば、「一般受けはしないので、万単位で売ることは困難な作家」でもあったということです。

そんな「マニア向けの作家」だった<兵頭二十八>が、意識的に一般読者に向けてメッセージを発するようになったことには、どのような理由があるのか?

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