2011年12月10日土曜日

果てしなく大きな期待値以上の大傑作『新訳 戦争論』

今年買ったものの中では、最も期待値の大きなアイテムだった『新訳 戦争論』(兵頭二十八著。PHP研究所)。どれくらいの期待値だったかというと、シーズン3を見終わって、「シーズン4が出たらいくら高くても絶対にBOXセットで買ってやる」と意気込んでいた『MADMEN』のシーズン4・DVDBOXの3~4倍くらい。つまり、手前の価値判断でいえば、5万円以上の期待値だったということですよ(ちなみに今年買ったものの中で最も期待値が低かったにも関わらず、中身が良かったアイテムは、ケリー・クラークソンの新譜です)。





というわけで、果てしなく大きな期待値を抱いていた『新訳 戦争論』を読み終わったわけですが、結論から言うと、期待以上のモノでした。つまり、手前にとっては5万円以上の価値がある内容ということ。まぁ、14年来の熱烈な兵頭ファンの言うことですからハナシ1/10くらいで聞いてもらった方がいいとは思いますが、それでも5千円以上の価値はあるってことですよ。

さて、手前が兵頭二十八師の『新訳 戦争論』に大いに期待していたのは、軍師の『日本の戦争Q&A』(光人社)で、以下の文をアタマに叩き込んでいたからです。

「じつは、「何物も根底に於いて政治と交渉を持たないものはない」と断言したのは、スイスの水土とフランス語の文化が生んだ天才、ルソーだった(石川戯庵訳『懺悔録』大正七年版、五七八頁)。現代のクラウゼヴィッツ研究者は、クラウゼヴィッツが著作の中で一度もルソーに言及していないことから、当時のあたりまえな知識環境を想像し損なうのであろう。クラウゼヴィッツ世代のインテリのドイツ人で、ルソーを全部読んでいない者の方が、稀だったのだ」(252頁)



軍師の指摘通り、『戦争論』の解説書でこのことに言及しているものは、少なくとも手前が読んだ限りでは一冊もありませんでした。ほとんどが遺稿を元にあれこれ語るもので、「なぜ、このような思想が生まれたのか?」については、「ナポレオン戦争に負け組みとして参加した圧倒的な経験から導き出されたものなのだ」的なハナシで済ませているわけです。

これはこれで正しいし納得もできるんですが、だったらなぜ、あのような書き方になったのか? どうして『孫子』ver2.0みたいなものとか、ジョミニみたいなわかりやすい“戦争の虎の巻”にならなかったのかといったことについては「当時、ドイツで一世を風靡していた観念論が云々かんぬん」と説明になっているようでなっていない説明で済ませているだけなんですよ。

翻って軍師の『新訳 戦争論』では、クラウゼヴィッツがドイツ観念論の影響以前に、こうした啓蒙主義の淵源にあったニュートンの『プリンキピア』に触発され、<戦争版の『プリンキピア』>を書こうという壮大な目標があったことを指摘。しかしながら、ニュートンには存在したケプラーやコペルニクスといった天文学・数学の“先覚者”が、クラウゼヴィッツにはいなかった――クラウゼヴィッツ以前に戦争学はなく、当然、“先覚者”もなかった――ことと、自らの限界(古典文学に対する無知であり世界旅行の経験・見聞)から、「1820~30年代における対仏戦マニュアル」という視点でしか書けなかったとしています。

で、これだけであれば「普墺戦争、普仏戦争の頃ですら時代遅れでしかなかった“戦争の虎の巻”」でしかなかったわけですが、それでもなお、現代において価値のある内容であるのは何故か? という点について、ルソーの弟子にしてロマン主義の子であったことを論証したうえで、だからこそ見通せた、「隣国を叩き伏せるために最も大切なこと」のエッセンスを、アノ複雑怪奇なテキストのなかから抽出しているわけです。

つまるところ今回の新刊は、単なる兵頭本の範疇を超えた――

・うすらバカにでもわかる『戦争論』の入門書であり、
・世界各国で出版されている『戦争論』解説書の一歩先を行く画期的な解説書であり
・一人の国民としてどのような心構えが必要なのかを説く啓蒙書であり
・ミリオタなら歓喜必至の歴史&軍事読み物でもある

――本なわけなんです! で、そんな面白くてタメになる本が1000円以下で買えるんだから、読書好きであれば是非、Aamzonでポチるなり、近所の書店(幸いPHP出版の本なので、ちょっと大きめの書店なら大概入荷しているはず)で買い求めるべきですよ。生涯に100冊以上の本を読んだことのある人であれば、確実に値段分は楽しめることは保証します。

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