2011年12月12日月曜日

『新訳 戦争論』をより面白く読むために

『戦争論』が描かれた1820~1830年代とはどんな時代だったのか? どんな形で戦争が行われ、どんな武器が使われていたのか? といったことを手軽にビジュアルで確認したい方のために、以下、2つの作品を推薦します。

映画『戦争と平和』(セルゲイ・ボルダンチュク監督)

DVDでは3巻「1812」におけるボロジノ会戦のシーン(原作の3巻第2部)。地平線まで間断なく行進する歩兵。サラブレッドの乗用馬とは明らかに違う、ピッチの短いギャロップとキビキビした方向転換をする軍馬の動き。黒色火薬特有の猛烈な発煙……もうね、この凄さと素晴らしさは手前ごときの語彙では伝えきれません。是非、観てください! といいたいとことだけど、残念ながらレンタルDVDがないんだよなぁ。

ともあれ、トルストイの名作を完璧な形で映画化した作品――なにしろナターシャの中の人が原作通りに年齢をとるくらい!――であり、手前が観た映画のなかでもオールタイムベスト3に必ず入る作品でもあるので、ボーナスが出て懐に余裕のある小金持ちな人であれば、騙されたと思って20000円を出してみてください。20000円出せない人は、以下のキャプチャで我慢してください。






*『戦争と平和』はあまりにもハードルが高い! という方には、廉価版DVDもありレンタルもされていて、名作としての定評もある『グローリー』をオススメします。舞台は南北戦争ですが、行われていた戦闘や露営の風景はクラウゼヴィッツの時代と大きく変わっていないので、19世紀の戦争の雰囲気は十分感じられると思います。





マンガ『軍靴のヴァルツァー』(中島三千恒著)

今年連載スタートしたマンガでは、一番感心した作品。架空世界の戦記マンガという、最近流行りのクズジャンルの一つだろう……と思いつつ立ち読みしたら、下手な歴史マンガよりもよっぽど素晴らしい出来でビックリ! 第一話の途中まで読んで――

・見開きの行進風景:中隊が8×14とかなり妥当な編成で付き従う輜重も2台。正確な考証か否かは措いておくとしても、ちゃんと考えて描いていることが良くわかる。
・リンゴジュース屋台横の籠:架空世界だからこそ空気みたいな日常における細かな描写を誤魔化せない。で、作者はこのことを良くわきまえている。
・登場人物の頭身の妥当性:主人公も一般的なマンガに比べると短足で、ハッキリいって絵的には見栄えはしない。ただ、これが戦闘シーンとかで動き出すと、俄然、リアリティが出てくる!

――これらのポイントを把握した後、即、レジに持っていったものです。

第一話では砲撃訓練をするわけなんですが、この描き方も上手くてねぇ。ナポレオン戦争当時の大砲がどのようにして撃たれるのか? を、予備知識の全くない読者にも完全に理解できるように描いてるんだもの。

最初の手順は装具の点検→ハンドスパイク、スポンジ棒、押し込み具、螺旋具…異常なし。

スクリューを捻って

両側から車輪をズズッと押して砲の位置を下げ

清掃、押し込み、位置固定、照準、側部をトンカチで叩いて修正して摩擦火管をセット

みたいな文字で書いたら「誰が読むんだコレ」みたいなことを、笑っちゃうくらい見事にマンガとして昇華してるわけですよ。架空の設定にしたのも歴史通り普墺戦争、普仏戦争を戦って勝つ――ヴァイセンのモデルがプロイセンであることは、最初のカラーページで主人公がピッケルハウベを被っているので誰でもわかる――という“オチ”で終わらせたくないことや、架空の人物に大活躍させたいためでしかなくて、それ以上でもそれ以下でもないんでしょう。

という感じで、「作者は『19世紀の戦争版<ひみつシリーズ>』をやりたかったんじゃね?」と思うくらいに、当時の軍隊のことがビジュアルとテキストでよく理解できる作品となっています。



0 件のコメント:

コメントを投稿