2012年3月21日水曜日

私家版・兵頭二十八の読み方:その17

**「私家版・兵頭二十八の読み方」のエントリでは、日本で唯一の軍学者である兵頭二十八師の著作を、独断と偏見を持って紹介します**

日本で初めて大々的に核武装論を唱え、日本国憲法廃棄を主張するという、一見、ネトウヨも真っ青な“タカ派”の主張をしながらも、田母神論文を持てはやす保守論壇を徹底的に批判し、真珠湾攻撃をだまし討ちと公言して憚らない――。このように兵頭二十八師の思想信条は、右翼(保守)/左翼(革新)のようにカテゴライズできるものではなく、一見、わかりにくく見えるものです。

だからといって、支離滅裂だとか複雑だとかいうわけではありません。実のところ軍師の主張ほどシンプルなものは他にありません。

例えば権力とは何か? という問いには、

●権力=飢餓と不慮死の可能性からの遠さ
(『日本の防衛力再考』4頁より)

と明快に定義していますし、いまの日本に必要な“倫理”は何か? という問いには、

●ひとつ。公人が公的な約束を破ったら恥じよ。
●ふたつ。無害な他者・他国に対して不親切な働きかけをするな。
●みっつ。有害な他者・他国からの干渉には必ず反撃の策を講ぜざるべからず。
(『予言 日支宗教戦争』11頁より)

と、こちらも明快に定義づけています。その他の主張についても、簡単な言葉で表現できるほど徹底的に考究し、練り上げているところが日本で唯一の軍学者たる所以といえるでしょう。

であれば、こうした“標語”に近いエッセンスだけを読めば済むのでは? と思われるかも知れません。しかし、なぜこのような定義づけをしたのか? なぜこうした“標語”が必要なのか? そして何よりこのような定義は本当に妥当なものなのか? を検証するためには、その著作を読み込む必要があるわけです。それこそ、軍師の言う「権力」について知るためには、最低限2段組で200ページ余に及ぶ『日本の防衛力再考』を読み込まないと、なかなか腑には落ちるものではありません。

『予言 日支宗教戦争』の冒頭で書かれた3つの“標語”も、ここまで思想が純化するまでに10年近くかかっています。

具体的には――

・『武侠都市宣言』(00年刊)で、日本が抱える構造的問題を「言語(日本語)」「地理(都市)」という固有の問題にまで遡って掘り下げ、

・『あたらしい武士道』(04年刊)で、『武侠都市宣言』での成果を基に、日本人に必要な「気構え」を論じ、国防には「武器」(ハード)ではなく「意志」(ソフト)こそが肝要なのだと主張して、

・『予言 日支宗教戦争』(09年刊)で、上記2冊と既刊著書の成果から、日本人に必要な「気構え」とは、シナ文明の持つ反近代性に対抗する「倫理」(宗教的教義)であると指摘したうえで、その本質を3か条に言語化した。

――というプロセスを経ています。つまるところ、軍師の主張の一端でしかない「いまの日本に必要な処方せん」について理解するためだけでも、最低3冊の著書を読む必要があったということです。

で、軍師の主張(=持ちネタ)は、これ以外にも「有事への対応策」とか「核武装論」とか「ロボット兵器」とか「日本及び世界史」とか「帝国陸海軍の兵器」とか……と、数多くあります。そして、その全てを理解するためには、結局のところ出版されている全ての著作を読むしかありませんでした。

このように初心者にとって敷居の高かった兵頭流軍学ですが、『日本人が知らない軍事学の常識』(草思社)が出版された今日以降は、随分と敷居が低くなったといっていいでしょう。何しろ過去に主張してきたほぼ全てのトピックを駆使したうえで、「2012年に生きる日本人に必要な軍事学の常識」が平易に解説されている本なわけですから。

つまるところ、これから兵頭二十八師のことを知りたい人は、まずこの1冊を読めば、既刊著作を読まずとも、兵頭流軍学の初歩を完全な形で学べるってことですよ。

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