◆目次
●第一部――否認
・第一章:立ち遅れ(北タワーでのぐずついた行動)
・第二章:リスク(ニューオリンズにおける賭け)
●第二部――思考
・第三章:恐怖(人質の体と心)
・第四章:非常時の回復力(エルサレムで冷静さを保つ)
・第五章:集団思考(ビバリーヒルズ・サパークラブ火災でのそれぞれの役割)
●第三部――決定的瞬間
・第六章:パニック(聖地で殺到した群集)
・第七章:麻痺(フランス語の授業で死んだふりをする)
・第八章:英雄的行為(ポトマック川での自殺未遂)
●結論――新たな直感を生み出す
・ハリケーン「カトリーヌ」の犠牲者は、人口の割合からいって貧困層ではなく高齢者が多かった。「ナイト・リッダー・ニュースペーパーズ」紙の分析では、使者の3/4は60歳以上で、半数は75歳を超えていた。
・彼らは、「カトリーヌ」以前の大規模ハリケーン「カミール」(「カトリーナ」より遥かに規模が大きかった)襲来時に中年だった世代。米国立ハリケーンセンターのマックス・メイフィールド所長曰く「経験は必ずしも良い教師になるわけではないのだ」。
・ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴァスキーは、人間が何かを選択する際、「発見的方法」(ヒューリスティクス)と呼ばれる勘定的な近道に頼ることを発見した。人はリスクを評価する際に、そのリスクを計算する前に直観と感情で動くということ。
・著者の提示する「不安の公式」――不安=制御不能+馴染みのなさ+想像できること+苦痛+破壊の規模+不公平さ 死亡リスクが最も高い心臓病よりも飛行機事故を恐れるのは、直観システムが働いた結果だろう。
・90デシベルかそれ以上の予期せぬ物音を聞くと、人間は本能的に恐怖を覚える。怖がっていることを気づかないうちに身体が“生存モード”に変わる。血管は収縮する一方で血圧が上がり、心拍数が増え、コルチゾール、アドレナリンなどのホルモンは急増する(生死に関わる状況の後、多くの人が口のなかに奇妙な化学薬品のような味がしたと報告している)。
・時間の体感速度低下は典型的な恐怖反応。時間の歪みはよく起こることなので、科学者は「タキサイキア」と名づけている。「頭のなかの速度」を表すギリシア語に由来した名前。
・恐怖を感じた瞬間に時間がスローダウンするように思えるのはなぜか? 実は通常の状態でも脳は時間を「支配」している。脳を時計店に見立てると、触覚、視覚、聴覚の全ては別々の構造を使って機能している時計となる。データがわずかに異なった時間に入ってくるので、二つの時計が全く同じ時間を刻むわけではない。なので混乱しないように脳が全てを同時進行させる。しかし、どうやって制御しているかは未だに解明されていない。
・2006年、テキサス大学のイーグルマンはある実験を通して「タキサイキア」を測定した。目的は「実際に物がゆっくり動いて見えるのか? あるいは後の記憶でそう思えただけなのか?」を判断すること。
・23人の学生ボランティアを高さ45メートルの塔の天辺に連れて行き、被験者を一人ずつハーネスに縛りつけ、後ろ向きに空中に落とした。学生には特殊な時計を持たせた。その時計は常態では人間の目にとまらない速さで数字を瞬間的に表示するもの。落下するときに学生たちは時計を見て数字を読み取ろうとした。時計の数字が読み取れれば、人間は恐怖により異常な力を発揮できると見ていいのではないかと推論できる。
・結果は『マトリックス』のようにはいかなかった。ボランティアは全員、スローモーションで動いているように確かに感じた。イーグルマン曰く「だれもが人生でもっとも長い三秒だったと報告している」。しかし、誰一人として数字を読み取ることはできなかった。時間の歪みは記憶のなかに存在しているということだ。
・「一般に時間はスローダウンしているわけではない。恐怖に満ちた状況のなかでは、人は脳のほかの部分、たとえば扁桃体などを働かせ、記憶を蓄積しているにすぎない。そして記憶は通常より強烈に刻み込まれるので、より長く時間がかかったかのように思えるのだ」(131頁)
・恐怖反応を扱うのに遊園地よりも簡単な方法は「呼吸」だ。警察官に教える一つの型は、「四つ数える間に息を吸い込み、四つ数える間息を止め、四つ数える間にそれを吐き、四つ数える間息を止める。これを繰り返す」。
・呼吸は体神経系と自律神経系にも存在する数少ない活動の一つ。つまり、この二つの神経系の架け橋であるため、意識的に呼吸を緩めることで原始的な恐怖反応を段階的に縮小できると考えられている。
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