2016年1月15日金曜日

SLGと「超訳 クラウゼヴィッツ『戦争論』」:その4

戦術級のSLGには、戦争の再現は全くできない――というのが、前回エントリの結論でした。では、前回指摘したようなツッコミどころを全て是正すれば、“将軍シミュレーター”としてより良いものができるのでしょうか?

以下、ちょっと「あるべき戦術級のSLG」について考えてみましょう。

例えば、大枠のシステムをTWシリーズに準拠するとして、その戦場の広さは40km四方くらい広大に設定。その戦場を鳥瞰することはできず、視点はあくまでも直率する部隊からの主観視点に固定される。当然、部隊の兵数、士気、疲労度などの情報は全て伏せられていて、兵数は自分の視野に入ってくる部隊に配属されている兵の数や規模感と、部隊長から上がってくる不完全な報告(=ポップアップ形式のメモ)でしか知ることができない。士気、疲労度なども、部隊の歩様や掛け声の大きさ、部隊長の報告から類推するしかない。これらの報告は、部隊長の性格や戦況の動きなどにより、過大及び過小に報告され得る。もちろん正確な情報が上がってくることもあるが、それを見極める方法はない。あくまでも複数の報告を照らし合わせ、自分の視野から見える情報(天気や兵の動きなど)から結論を導き出すしかない。

40km四方の広大な戦場であるために、真っ直ぐ進めば会敵するとは限らない。なので、前衛部隊を出すか、騎兵から偵察部隊を抽出して周囲を調べ、敵の位置や兵力などを探らなければならない。当然、偵察の報告も玉石混交となる。こうして情報を集め、情況を推測し、行軍方針、陣形、休養のタイミングなどを決め、各部隊に命令を下したとしても、その命令が各部隊に届くのは、ゲームのタイムスケールで30~1時間後となる。しかも、各部隊長が命令を履行しないorできないこともあり得るので、それを見越したバックアップ策も取る必要があり……。

とまぁ、こんな感じになるでしょうか。仮にゲームのタイムスケールを「1時間=6分」と設定しても、会戦が終わるまでにリアルタイムで7~8時間掛かかったりするでしょう。また、思うように部隊が動いてくれず、その動かない状況も正確に把握できないシステムであることから、ゲームプレイそのものがストレスの原因となるであろうことは、容易に想像がつきます。つまり、リアリティラインをグンと上げてしまうと、遊んで楽しいモノ、ゲームとして商品化できるようなモノにはならないということです。

こういった現実とゲーム性との折り合いをつけながら、「ゲーム的なリアリティ」を追及しつつ、売れる商品を開発することがゲーム会社の使命といえるでしょう。ですから、「なんだよ、戦術級のSLGなんてフィクションどころかファンタジーじゃねぇか!」みたいな文句をつけること自体が間違っているのかも知れません。

ただし、ここまでのハナシは、全て戦術級のSLGに限ったハナシです。これが戦略級のSLGになってくると、ハナシが大分変わってきます。というのも、戦術級のSLGにおいて、具体的に表現しなければならなかった各部隊の機動や士気、疲労といったものを、戦略級のSLGでは、上手い具合に省略できるからです。

具体的にどういうことなのか? 戦略級のSLGで手前が最も好きな、『Victoria2』(以下、Vic2)を例にあげてみましょう。

Vic2における会戦は、世界地図上で味方と敵それぞれの軍団(最小規模で3000人)がぶつかり合うことで生起します。ここまではTWシリーズと変わりありませんが、Vic2ではそこから戦術級のSLGに舞台が変わることはありません。会戦は自動処理され、早ければ1日、長ければ数ヶ月かけて決着がつけられます。

自動処理に盛り込まれているパラメータには、兵数に加え、軍団の技術レベルや部隊構成(歩兵、騎兵、砲兵の比率)、士気、補給レベル、戦場の地形、双方の将軍のスキル、厭戦気分などがあります。こうしたパラメータを合算したうえで、1日ごとに両陣営がサイコロを振り、その結果を受けて双方の兵数、士気が減り、最終的に士気が崩壊した方が敗走する形で決着がつきます。

このVic2の会戦システムは、非常に興味深いものなのですが、一々説明したら軽く10くらいのエントリが必要になるので、ここでは省略します。大雑把にまとめるなら、「自動処理におけるサイコロの目と諸要素の計算により、会戦における両軍の機動や攻撃、防御、奇襲などの要素を表現している」となるでしょうか。つまり、戦術級のSLGで不満に思う点が、全て抽象化されたうえで、数字に置き換えられているわけです。

その分、軍団の維持、行軍、強さなどについては、念の入った設定がなされています。例えば都市ごとに設定されている「補給限界」。これは大都市では多くの部隊が養える一方、田舎では数万人もの軍団を受け入れられないという事実をパラメーター化したものです。これにより、国境付近の田舎町数万人もの軍団を常駐させると、1日ごとに士気と兵数が減っていく――日々の食料がまかなえず、脱走兵が多発する――ことになります。これを避けるため、大軍団で侵攻するには、侵攻ルートを考え、軍団を分けて行軍しなければなりませんし、こうしたルートを考慮して有利な会戦場所を考えなければなりません。一昔前の『信長の野望』のように、四国の辺境の城に20万もの兵力を常駐させるなんてことはできなくなっているのです。

また、「補給限界」にあわせた小軍団であっても、敵地で露営すれば士気が下がりますし、冬の行軍では脱落者が続出します。それに国家の方針として厭戦主義及び非戦主義(与党が社会主義政党である場合に多い)をとっている場合には、軍隊への予算配分が減ってしまうので、その分、補給物資が滞るようになり、軍団全体のポテンシャルが落ちてしまいます。

以上のようにVic2は、国家的な視野から軍を動かすにあたってのリアリティラインが、結構高めに設定されています。なにより戦場の偶然をサイコロで再現し、軍における摩擦を補給限界や行軍、露営時の消耗度で表現する一方、部隊の機動や滞陣、奇襲などの要素は大胆にオミットすることで、戦術級のSLGが陥りがちなファンタジー性をなくし、逆説的にリアリティラインを高めているといえるでしょう。

では、戦略級のSLGは戦争をリアルに表現できているのか? といえば、残念ながらNOといわざるを得ません。理由は戦術級SLGと同じで、GNPから個々の軍団の兵数に補給比率、果ては国民の厭戦気分まで、あらゆる情報を100%正確に把握できる点にあります。では、これらの情報を全て伏せ、部下からの正確かどうかわからない数々の報告から類推できるようにすれば良いわけでもないってことは、上記のとおりです。

「だったらSLGなんて、スマホのゲームと同じで『時間潰しのツール』でしかないじゃん」

と言われれば、「その通り」と応えるしかないわけですが、それでもSLG、とりわけ歴史モノのSLGには、『時間つぶしのツール』以上の何かがあるはずだと思うのですよ。
(つづく)

追記:このエントリは次回で終わりです。



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