2014年12月26日金曜日

今年観た海外ドラマの短評

観たけど覚えていないものも多数あり。『ホームランド』とか『リベンジ』とかね。

・Arrow(S2):△。シーズン1より面白い。「実はあいつが生きていて~」みたいな展開については、放送局がCWなんだからしょうがない。リアリティレベルは高いように見えて、随分低めなので、肩肘はらずに見ていられる。大筋はシーズン1とほぼ同じで、要するに「バットマン・ビギンズ」を22~24epに渡って展開しているだけ。サラ(=ブラック・キャナリー)役のケイティ・ロッツは、ケツあご以外は文句なし。何より良く鍛えられたボディと、切れのあるアクションが良い。『マッドメン』で「野暮ったいカルフォルニアガール」を演じていたとは思えない。番組クラッシャーで有名なサマー・グローたんが結構出ずっぱりであったにも係わらず、シーズン3まで継続できたということは、それだけ番組に魅力があったからなのかも。

・私はラブリーガル(S4):×。シーズン3までは本当に面白かったんだけど……。シーズン全体の構成だけでなく、各話の法廷ドラマの出来も目に見えて質が落ちたような気がする。あと、これまではジェーンのハナシと対になるように、ステイシーのハナシが展開されていたものだけど、S4ではステイシーのハナシが随分減ってしまったのがねぇ。ステイシーファンとしては残念の極み。

・アウトランダー:○。8話まで視聴。原作も邦訳されたものは全て読んだけど、ドラマの方が面白さ、深みとも格段に上。S1E1の展開が結構ちんたらしているので、昨今流行のサッサとタイムトラベルするタイプのハナシに慣れた人には厳しいかも知れないけど、演者の魅力でグイグイ引っ張られる。ep2からはタイムトラベルモノの魅力がフルに発揮され、最高に面白くなってくる。原作に忠実なストレートなエロシーンが多いのも特徴的。

・アンダーザドーム:×。S1E2の途中まで視聴して脱落。ここまで見て、「あぁ、いつものキングね。ようするに『ザ・スタンド』とか『ミスト』みたいな展開になるのね」と早合点して自主的に視聴終了。聞くところによると『LOST』っぽいらしいけど、そもそも『LOST』みたいな「謎ありきのドラマ」が苦手中の苦手なので、どっちみち見続けても時間の無駄になるだろうと納得。

・Dr.WHO:◎。S4のクリスマススペシャルを視聴。S5からS7まで視聴して、ようやくマット・スミスに慣れたと思ったのに、いざ、デヴィッド・テナントを見ると、最初の1分で全部持っていかれた。もうね、彼は終身名誉ドクターでいいと思うの。

・ブレイキングバッド(S1~S5):◎。アメリカ文化の基礎教養レベルの作品。脚本、配役、演技。どれをとっても隙がない。面白さは文字通り破格。誰が見ても楽しめることは必定。これを見るためだけにHuluに加入してもいい。

・ハリーズ・ロー:△。S1E3まで視聴して中断。キャシー・ベイツはいいし、ブリタニー・スノウもかわいいんだけど、それ以上にコレといった魅力が感じられず。

・パンナム:×。S1E1で脱落。美術と衣装、CGは大したものだけど、肝心の脚本がダメ。ハナシの焦点が絞りきれていなくて実に散漫。女の一代記を見せたいのか、スパイ危機一髪を見せたいのか、ハイソなヤンエグの華麗な恋愛事情を見せたいのか。全部盛り込もうとして中途半端な出来になっている。

・グリム:×。S1E3で脱落。グリム童話をモチーフとした『量産型スーパーナチュラル』 ラスト近くに、あのエリザベス・マスラントニオ――トニー・モンタナの妹を皮切りに、90年代前半までハリウッド大作のヒロインをたびたび張っていた名女優――が出てくるというので、最後まで我慢して見ようと思ったんだけどねぇ。『スーパーナチュラル』でさえ、S1最後まで持たずに脱落した手前には厳しかった。

・ロストガール:△。S1E3で中断。こっちは女の子2人組による『量産型スーパーナチュラル』。主人公がサキュバスで、『スペースバンパイア』みたいな特技を持っているところが面白いし、サブの子もカワイイから見続けたいんだけど、それ以上の魅力がないところがなぁ。

・メジャークライムズ(S1):○。主人公がドニー・ダーコの母ちゃん(あるいは地球連邦大統領)になっても、面白さは相変わらず。手前的にはフリンとプロペンザの二人が元気でいれば、それで満足。脚本の完成度はいつもどおりハイレベル。良くも悪くも安定した面白さ。

・デクスター(S8):△。S5以降では一番面白くなかったかも。ラスボスが小物なのは仕方がないとしても、ハンナとの復縁とかデボラとの関係修復とかがね、ハナシの展開にあわせて無理矢理こじつけられた感がありありと感じられしまってね。ちなみにデクスターについての手前の評価は、「完成度ならS1。面白さならS2。でも一番好きなのはS3」という感じ。

・チャック(S5):△。ep1は面白かったけど、それ以降は尻すぼみ。これまで意図的に伏せられていたこと(サラの母親など)も全部開陳しつつ、広げっぱなしだった風呂敷をある程度畳むことに成功しているけど、展開が異常に早いので、脚本のアラが目立つ目立つ。フルシーズンでやっていれば大分印象が違ったんだろうけど……。終わり方については、まぁ、アレでいいんじゃないかと。

・ホワイトカラー(S4):○。いつかつまらなくなる! と思いながら見続けているものの、全然つまらなくならなかった。全シーズン、一定して面白い。アレックスが劣化したことと、番組内での扱いがぞんざいなことにナミダしたけど、それ以外にこれといった不満はなし。

・リゾーリ&アイルズ(S1~S3):△。刑事モノとしても家族モノとしても中途半端な出来なドラマだけど、タイトルになっている2人のキャラ造形があまりにも良くて、それだけで持っているドラマ。あと、オープニングについては、ここで取り上げた全てのドラマの中で一番かっこいい。

・スーツ(S1~S2):○。S1E1の出来が存外良かったので、その貯金で見続けているうちに段々とハマっていった。ヒロイン役は『フリンジ』に出ていたときとは打って変わって美人に撮られている。メイクと服装でここまで変わるのだね。

・アルファズ(S1):△。S1まで見て中断。S2はDVDをレンタルすれば見られるけど、お金を出してまで見る価値はないと判断。内容は劣化版『HEROS』。

・コバート・アフェア(S3):×。ジェイとお姉ちゃんの退場で、ハナシが一気に薄っぺらくなった。元々OLに毛の生えたようなアニーが、銃声に怯えながら書類を獲ったり獲られたりするような一風変わったスパイモノ――というのがウリだったのに、S2で戦闘訓練をして以降、良くあるアクションモノになっちゃったのがなぁ。

・パーソンオブインタレスト(S1~S2):△。S1E1は最高に面白かった。けど、以降はこれ以上に面白くはならず。S2はS1よりハナシがつまらないものの、エイミー・アッカー(加藤夏希の上位互換)、サラ・シャヒ(とにかくイイ女)という、手前の好きな二大TV女優が出てきたので、彼女たち見たさに視聴を続けた。

・ハウスオブカーズ(S2):◎。文句をつけるところは一つもなし。ドロドロした権謀術数が好きな人なら見ないと損。一言でいうなら“21世紀のアメリカ版夫婦坂”だけど、妻は耐える女では全然なくて、夫以上に野心があり智謀に長け執念深いという女傑。これを演じきるロビン・ライト(フォレスト・ガンプのヒロイン。そう、あの清楚系クソビッチ!)が本当に素晴らしい。

・エレメンタリー(S1):△。S1E8で脱落。ホームズ、ワトソンの配役、演技に文句をつけるところはゼロ。てか、BBCの現代風リメイクより好きだったりする。この辺はさすがにハリウッド俳優なんだけど、ここまでのところでは、お話自体に大きな魅力が感じられず。何というか、よくある刑事モノとあんまり変わらない感じがしてね。

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。

2014年11月30日日曜日

「指揮官が悪いと部隊は全滅する」

――とは、プロ野球史上最多勝監督である鶴岡和人が、南海を退団するときに口にした言葉。この名言の価値、重さをズッシリと感じられるゲームが、中世村社会建設シミュレーション『Banished』ですよ。

11月初めにSteamにて半額セールだったので早速開発、日本語化MODを入れて遊び始めたわけなんですが……。チュートリアルをせずに「難易度ノーマル&小さい渓谷マップ」でチャレンジして30余回、連続で村を全滅させました(><)。

ゲーム開始時に4~5家族(20人弱)の人員と極僅かな食料、薪、服、道具と木材、石材、鉄材などの資源を持ってスタートするんですが、調子に乗って家を作ったりすると、人口が増えて薪、食料が足りなくなり全滅するし、猟師小屋ばかりを建てていると、不安定な食糧供給と薪不足により全滅するし、家、木こり小屋、薪切り小屋、漁師小屋などをバランスよく建てても、そこに働く人がいない&建物を建てすぎて資源不足に陥り薪がなくなり全滅……という感じで、簡単に全滅します。追放者の行く手に立ちはだかる大自然――舞台は開拓時代のアメリカだろうね。物々交換が基本でトウモロコシの種もあるってことは、少なくとも貨幣経済が成り立っていてトウモロコシのトの字もなかった中世ヨーロッパではないものね――は、本当に容赦ありません。

こんな感じで600人以上もの犠牲を払った結果、ようやくにして「ノーマルなら10回中10回は初年度の越冬を成功させられる」まで上達。ここまで腕を上げたことで、本格的な村の建設に着手すべく、「ノーマル&大きい山岳マップ」にて、Rorikstead――『Skyrim』で最も辺鄙な山村。馬泥棒のロキールと虐殺者エリクの出身地にして、赤のラグナルも滞在していたらしい隠れた名所――と名づけた地に桑を入れたわけです。

が、3~5年くらいは楽々と進められるものの、人口が100人近くになると、ちょっとした慢心及び環境の変化により、重いもよらぬ形で村が全滅するわけですよ(><)。

具体的に言うとですね……

・食料を多く備蓄すべく、6年ほど人口を増やさずに回していたら、熟練労働者が高齢化によりバタバタ死亡。
・労働力不足により一次産業に優先して労働者を配置し、二次産業を後回しにしていたら、道具不足により生産効率がガタ減り。
・結果、当年度の食料生産高が前年度比で30%減。薪の生産もカツカツだったため冬に餓死、凍死者が続出。
・学校を稼動停止にして、学生を無理矢理に猟師や漁師にするものの、非熟練労働者であるために思うように生産高が上がらない。
・その後も餓死者がコンスタントに増え続け、最後には人っ子一人いなくなる。

……みたいな感じですよ。このほかにも「ほんのちょっと家を作りすぎた結果、食料の生産が追いつかずに餓死者が発生。薬草小屋の熟練労働者を農家に回した結果、村人の健康度が下がり出生率が低下。少子高齢化が進んだ末に全滅」とか「移民を受け入れた結果、薪の備蓄が一切なくなり熟練労働者に凍死者が発生。これが食料生産に響き、数年後に村が壊滅」とか「竜巻により8人働いていた鉱山が壊滅。これにより鉄の生産がストップした結果、道具不足となり生産効率がガタ減りして、数年後に村が崩壊」とか。とにかく「安定軌道って何?」ってな感じでポンポンと全滅してしまいます。

とまぁ、このようにシビアなゲームなんですが、だからといって理不尽に難しかったりゲームバランスが悪かったりするわけじゃぁないんです。てか、システム、バランスともこの手のゲームのなかでは図抜けて素晴らしいんですね。人の配置とモノの生産、その結果起きることが、極めて論理的かつ厳密にマネジメントされているので、仮に村を全滅させたとしても、運やシステムのせいにすることなく、「村長である自分の采配が悪かったせいなのだなぁ」と100%納得できるわけですよ。

で、現在、Rorikstead建設(3日振り5回目)に邁進しているわけですが、20年目にしてようやく安定軌道に乗りつつあるようです。といっても、食糧生産高と消費量はギリギリで均衡していたり、近隣の森林を伐採しつくしたものの、ちょうど良い木こり小屋建設予定地が見つからなかったり、いつまでたっても交易商人が家畜を持ってこないので、中々良い服が作れなかったりと、潜在的な問題を抱え込んでいます。つまるところ死と隣り合わせの村ってこと。といっても、近代までは世界中どこでも餓死と凍死が身近にあったことを考えれば、いまのRoriksteadは“平時”ってことなんでしょう。日本語MODを使わず、Steamの実績解除を目指したこの村がどこまで発展できるのか? まぁ、仕事やHulu視聴の合間にちょくちょく進めていくつもりです。

追記:5~6年振りくらいに『Total War』シリーズを遊ぶ。Steamの“探索セール”で75%引きだったので、日本語化MODの導入が簡単であることを確認したうえで、『Total War:Rome2』を開発。前に遊んだのは『Medieval 2:Total War』だったんだけど、AIがあまりにもバカ――目の前で包囲機動をとられているのに全然動かないのね。まるで名乗りを上げているゴレンジャーに手出しをしない黒十字軍の面々くらいに無能――で、CPUが操作する教皇庁がムスリムと同盟を結んだことを確認した時点で、ソッ閉じ&ソフマップに販売したものです。翻って今作はAIがそこそこ賢く、映像も抜群にキレイで、「これはキャンペーンを完走してみなくては」という意欲を沸かせるくらいの出来にはなっています。実際にやってみたら、戦場で同数の相手に粉砕されたり、内政に時間をかけて磐石な体制を築いたと思ったら、隣国が2~3州を制覇していて太刀打ちできなくなっていたりと、久しぶりのプレイに四苦八苦。こんな感じで「やられながらコツを覚えるとき」ってのが、シミュレーションゲームをやっていて一番面白いときだからね。

2014年10月9日木曜日

私家版・兵頭二十八の読み方:その28

「史上の人物が実際に考えていたことを忖度し、これを肉声化できる」 これが歴史研究家としての兵頭二十八師の“強み”なのだ――

といっても、こうした類の“強み”を持つ人々は、実の所少なからず存在します。代表的な例を挙げるなら、小説家上がりの歴史研究家でしょう。なかでも松本清張や井沢元彦氏は、その双璧といってもいい存在です。

松本清張は言わずと知れた社会派推理小説の大家にして、『昭和史発掘』『古代史疑』といったノンフィクションの歴史本を書いています。一方、井沢元彦氏は、週刊ポストで長く連載している『逆説の日本史』の著者です。いまでこそ歴史本しか書かない作家として名が通っていますが、かつては江戸川乱歩賞作家として、数多くのミステリ、歴史小説を書いていました。

こういった歴史好事家の魅力は、なんといっても「想像の飛躍による通説の打破」にあります。一例を挙げるなら、井沢氏による「天智天皇と天武天皇の非兄弟説」を下にした壬申の乱の新解釈でしょう。日本書紀を基に練られた通説を「資料至上主義」と一蹴したうえで、日本書紀成立の背景(=天武天皇による御用史書)という視点から、生没年の明らかでない天武天皇が、実は天智天皇の異母兄であったと論証。そのうえで、本来、天皇になれるはずのなかった賤しい血筋の天武天皇が、大友皇子から天皇の位を簒奪した経緯を糊塗するために、史書を編んだ――というハナシを展開している『逆説の日本史 古代怨霊編――聖徳太子の称号の謎』は、20年前、若かりし手前も大興奮しながら読んだものです。

しかし、こんな感じで歴史のエピソードを面白くまとめられる一流小説家の想像力と筆力というのは、歴史研究という点においては、短所ともなります。

基本的な歴史教育を受けておらず、一次資料をしっかりと読み込まずに書くと、想像力が暴走して無駄に面白いハナシを書いてしまうわけです。結果、松本清張の『日本の黒い霧』みたいな陰謀論とか、井沢氏の信長神格化みたいな歴史修正主義っぽいハナシのように、一つの“おとぎ話”としてはベラボーに面白いものの、史実をベースとしたハナシや論文として見ると、極めて残念なモノにしかならなくなってしまうという……。

この点、軍師には隙がありません。まず、小説家上がりの歴史研究家と違う点は、一次資料をしっかり読み込んでいることです。

「え!? なんでそんなことが断言できるの?」

と思われるかもしれませんが、手前がここまで言い切るには、ちゃんとした理由があります。その理由とは、『日本の陸軍歩兵兵器』『日本海軍の爆弾』の著者であるということ。三八式歩兵銃の評価を180度転換させた古典的名著である『日本の陸軍歩兵兵器』と、特攻作戦の持つ一種の合理性を丁寧に論証した『日本海軍の爆弾』は、いずれも膨大な一次資料を丹念に読み込まなければ絶対に書きようのない本だからです。実際、すべての項目に細かなスペックが記載され、それまでの研究者が見逃していた事実を掘り起こしまくっているわけですよ。内容だって誤解を恐れずに言うなら、ほとんど「1.5次資料」みたいなものですからね。軍学者として、こういう実績をしっかり残してきているところは、小説家上がりの歴史研究家とは明らかに一線を画している点といえましょう。

加えて、軍学者を名乗る以前は劇画原作者として名を成すべく、せっせとシナリオを書いていたという経歴があります。

以下、『ヤーボー丼』の著者紹介より引用

「私がこういう評論を書くのを快く思わぬ人達もいるでしょう。しかし、私に評論を止めさせたくば、ナイフもテッポーも必要ないんです。講談社、小学館、集英社、秋田書店…etcといったところのマンガ雑誌の編集部に、『今週の巻頭の作品は何だ。あんなものはすぐに打ち切って、兵頭二十八の原作で何か新しい連載を始めろ! 作画家は○○○[←ここにその雑誌で一番絵のうまい作家の名前を入れる]だぞ、いいな』という内容の手紙を書きましょう。ひとりが1社につき100通ぐらいは出してください。その甲斐あって週間で16ページ、月刊で32ページ以上をコンスタントに貰えるようになったら、もうその日限りでこんなアルバイト、即止めますよ。ホントーです。あっ、そうだ、Vシネマの脚本もやりますので、ヨロシク!!」

このように茶化して書いていますが、劇画原作者or脚本家を目指して日々精進していたことや、M16を持った殺し屋が主人公の劇画原作とか、気象予報士が主人公の劇画で単行本にもなった『ヘクトパスカルズ』の原作をやっていたことは、古くからの兵頭ファンであれば誰もが知っていることです。

であるからこそ、膨大な一次資料から読み解いた史上の人物を、劇画原作の手法を応用することで一キャラクターとして捉えなおせる。そのうえで史書に書かれていない声なき声を代弁できるのではないか? というのが手前の考えです。

劇画原作者として修行した経験と、(少なくとも)大東亜戦争における帝国陸海軍について研究者以上の仕事を成し遂げたという実績――この2つのユニークな経歴があるからこそ、クラウゼヴィッツや孫氏(と注解者)、宮本武蔵といった史上の人物の肉声を再現できるのではないかと。

……って、今回のハナシは、今回発売された文庫とは全く関係のないモノになってしまいました。が、かねてからボンヤリと考えていたことを、ひとまずカタチにすることができた――というか、こういう本と関係のないハナシは、新刊の紹介では中々出来ませんからね――ので、個人的には大満足です。

ともあれ、今回文庫化された『日本人が知らない軍事学の常識』と、先に文庫化されている『日本国憲法廃棄論』の2冊を精読すれば、兵頭流軍学の半分くらいはマスターできるので、「これから兵頭流軍学を修めよう!」という立派な心意気を持った方は、是非、ポチってください。

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。








2014年10月8日水曜日

私家版・兵頭二十八の読み方:その27

兵頭二十八師の新刊文庫『日本人が知らない軍事学の常識』が発売されました。この本については、新刊発売時に上梓したエントリで全て書き尽くしているので、「どういう本なのか?」について知りたい方は、以下のエントリを参考にしてください。

軍師にとって初めての軍学入門書『日本人が知らない軍事学の常識』
私家版・兵頭二十八の読み方:その16
私家版・兵頭二十八の読み方:その17

さて、今回の文庫化にあたっての目玉といえば、「付録 著者による旧著の解題」です。385頁から403頁までに取り上げられた著書は――

・大日本国防史――歴代天皇戦記
・新解 函館戦争――幕末箱館の海陸戦を一日ごとに再現する
・あたらしい武士道――軍学者の町人改造論
・陸軍戸山流で検証する 日本刀真剣斬り
・新訳・孫子――ポスト冷戦時代を勝ち抜く13篇の古典兵法
・予言・日支宗教戦争――自衛という倫理
・日本人のスポーツ戦略――各種競技におけるデカ/チビ問題
・名将言行録――大乱世を生き抜いた192人のサムライたち
・人物で読み解く「日本陸海軍」失敗の本質
・新訳・戦争論――隣の大国をどう斬り伏せるか
・東京裁判の謎を解く――極東国際軍事裁判の基礎知識
・比べてみりゃわかる第二次大戦の空軍戦力――600機の1/72模型による世界初の立体比較!
・精解・五輪書
・極東日本のサバイバル戦略

――の14冊。過去の著作についてあまり言及することのなかった兵頭師が、「オレはこういう意図でコレを書いたのだ」と、ガンガン語っているので、これはもうファン必読です。

で、今回の文庫について……と、書こうと思ったのですが、実のところ解題を読んでいて、かねてから考えていた「歴史研究家としての兵頭師の“強み”」について、改めて思うことがありました。というわけで文庫の紹介は過去のエントリにまかせ、今回は手前が考える兵頭師の“強み”について書いていこうと思います。

*念の為に言っておきますが、兵頭師の歴史研究家としての側面は、安全保障を軸にあらゆることに通じている軍学者としての一面に過ぎません。もっと砕けた言い方をするなら、「持ち芸の一つ」ということ。

以下、解題にある一文を引用します。

『一事が万事で、旧来の『五輪書』の解説書は、ほとんど冒涜的なまでに、武蔵の「肉声」の再現に失敗している』
『クラウゼヴィッツがジョミニを強く意識しながらその名をほとんど出していないため『戦争論』が後代の読者にとって難解となったように、また山本常朝が柳沢吉保の出世をいたく羨望しながら「赤穂浪士義挙」を聞いて『葉隠』を書いたという個人事情を察しないとわれわれにとって危険であるように、武蔵が強く意識しながらもわざと名を上げていないことの数々(その出世を最も羨まれた柳生家から、「大工の大名」だといえた中井大和守正清に至るまで)が、細かく注釈される必要があるのだ』(400頁)

そうこれ。歴史研究家としての兵頭師の“強み”は、「史上の人物が実際に考えていたことを忖度し、これを肉声化できる」ことにあるんですよ。
(つづく)

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。

2014年9月9日火曜日

今年観たドラマで一番のお気に入り『サン・オブ・アナーキー』を宣伝する

Huluのみの配信でDVDは海外版しかなく、かつDQN臭紛々なイメージボードにして、舞台が本邦とはまるで縁のないバイカー集団という、見る人を選び過ぎるほど選ぶドラマ『サン・オブ・アナーキー』(Sons of Anarchy。以下、SOA)。ググっても感想を書いているblogが1~2つくらいしかないほど不人気……というか、そもそも本邦において知名度が果てしなくゼロに近いドラマです(アメリカでは大人気でシーズン7まで製作決定)。

Huluについていえば、結構なヘビーユーザーであると自認している手前にして、↑のような先入観から、第1話を視聴するのに躊躇していたんですが、Huluでシーズン4を更新した際に何となくIMDBで出演者を見ていたら、ヒロインがマギー・シフ!!―― 『マッドメン』シーズン1でドンの浮気相手だったレイチェル・メンケンにして、女性の好みについて特殊な嗜好を持つ手前にとってどストライク(“秋の風物詩”の140km/hストレート以上にど真ん中)なルックスと空気感を持つ女優――であると知り、「これはヒロインを見るために視聴せにゃならん」(戸田奈津子風)と決心。即、マギーたんのヒロインっぷりを楽しむべく、布団と枕をイイ位置にセッティングして視聴したわけですよ。

で、見始めてみたら、これがもう本ッ当に素ン晴らしい。

食わず嫌いで見ていなかったことを恥じてしまうほど面白い。そりゃもちろん『ブレイキング・バッド』とか『ドクター・フー』みたいに、誰が観ても面白いドラマとは言いませんよ。でも、本邦において、このまま知名度ゼロで埋もれてしまうには、あまりにも勿体ないドラマだと思うので、以下、誰に頼まれたわけでもないけど宣伝します。

『SOA』とはどんなドラマなのか? シーズン4まで見終わった手前が定義づけるなら、「アメリカの西海岸を舞台とした、『仁義なき戦い・代理戦争』と『極道の女たち』を足して2で割ったような血みどろの群像劇」ってな感じになるでしょうか。

もう少し詳しく説明すると、『SOA』の舞台となるのは、カリフォルニア州にある架空の都市・チャーミングに本拠を置くバイカー集団『SOMCRO』(Sons of Anarchy Motorcycle Club, Redwood Original)です。バイカー集団とは、「革ジャンを着てハーレーに乗ってジャック・ダニエルズを回し飲みするようなアメリカ版珍走団」(=ヘルズ・エンジェルスみたいな集団)のこと。ただし、その実態はといえば、「ケンカといえば鉄パイプとチェーン」程度の珍走団みたいに大人しいものでは全然なくて、「ケンカといえばMP5とM4。あとC4も少々」という極めて物騒な暴力組織です。彼らのシノギは「銃の転売」。古くから懇意にしているIRA(アイルランド共和国軍)から武器を卸してもらい、これを黒人ギャングやチャイナマフィアに売りつけることで、日々の活動費を稼いでいます。

この『SOMCRO』の副総長を務めるのが主人公のジャックス。このジャックスを中心に、敵対組織や地元警察、ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)、連邦検事補などとの対立という縦軸と、義理の父と母、恋人と息子、『SOMCRO』メンバーとの人間関係という横軸の綴れ織りで展開するストーリー……というのが、基本的なハナシの構造です。

で、どんなハナシなのかといえば、製作者が語っているように、基本構想は「バイカー集団×ハムレット」というもの。ただし、ハムレット色が濃厚なのはシーズン1までで、シーズン2以降は、そこから大きく逸脱した過激な群像劇になります。

さて、ここで本題。このドラマの何が素晴らしいのかっていえば、一にも二にも脚本の出来です。ハナシの整合性やキャラクター造形の一貫性、練りこまれたセリフといった基本的なことはもちろんのこと、抗争における戦術とか、大仕掛けの罠とか、脅迫の仕方とかがね、実に良く考えられていて、本当に頭の良い脚本なんだ。

具体的にいえば、イケメンでケンカも強い副総長・ジャックスの描き方。彼は作中において最も頭の切れるキャラクターで、ATFや敵対組織の罠を看破しつつ、カウンターの策を仕掛けるという、諸葛孔明レベルの知略の持ち主として描かれています。

そう、ここでは簡単に諸葛孔明レベルの知略って書いているけど、これって文字にするのは簡単だけど、実際にドラマの中でこういうキャラクター描くためには、「脚本家が諸葛孔明レベルの知略」 すなわち知力100の脚本家じゃなければ描けないものです。

もちろん知力100ではなくても諸葛孔明レベルの知略を描くことは不可能じゃぁありませんよ。例えば知力65くらいの作家、脚本家ならば、「主人公の知力は65だけど、相手の知力を25くらいにする」という形……すなわち、相手を底なしのバカに設定すれば、主人公が相対的に優秀に見え、ひいては諸葛孔明レベルの知略があるようにも見えるという描き方もあります。

↑の手法で典型的な作品といえば『銀河英雄伝説』です。主要登場人物の作戦なり戦略なりは、冷静に考えてみれば全然大したものじゃないんだけど、その作戦なり戦略に相手がまんまと引っかかった結果、「奇術師ヤン」という伝説が生まれ、銀河の歴史がまた1ページ捲られていくという。といっても田中芳樹先生くらいに、読者に一切疑問を抱かせなほど物語に引きずり込む類まれな筆力があれば、↑の手法も上手くハマるわけですが、それでも再読すれば、「やっぱ相手がバカすぎじゃね」と思ってしまうのは否めないわけで……。

この点、『SOA』では、ジャックスのライバルであるATF捜査官のストール、連邦検事補のポッター、NORDOのソベルらの知力が90~80くらいはありそうなキレ者で、底なしのバカなんかじゃぁ全然ないんですよ。そんなキレ者の繰り出す策なものだから、基本的に頭の悪いジャックス以外の面々――古株で経理も得意なボビー(知力80前後)や総長のクレイ(知力60前後)以外は、全員低学歴なDQN(知力30~20くらい)――は、まんまと策に乗せられてしまうわけです。

しかも彼らが仕掛けてくる策というのが、実に周到でえげつない。本気で“殺しに来る”んですね。他のドラマとは違って、主人公達は実に容赦なく追い込まれます。たとえて言うなら、シーズン毎に「デボラに正体がバレたデクスター」クラスの窮地に追い込まれるということ。

追い込み方も本当にえげつなくて、結果、他のドラマでは絶対に死にそうにないキャラがバンバン死んでいきます。こいつは死なないだろうと確信できる(=主人公補正が掛かっている)のはメインキャストの3人くらい。全くもって気が抜けない。

で、シーズン通して混乱した事態を収拾しながら、時に味方を騙したり利用したりしつつ、シーズンラストでキッチリ反撃するジャックスがカッコイイ! カッコイイ!! カッコイイ!!! 本気で“殺しに来る”策を上回るカウンターを繰り出し、かつ、容赦なく追い込まれた状況をひっくり返す。そんな大逆転を「主人公補正」や「ご都合主義」をなるべく使わず――シーズン2の偽札やシーズン4のCIAは、一応伏線っぽいのはあったけど「ご都合主義」だわね――に実現するんだから、見終わった後に感じるカタルシスも超特大ってことです。

あと、ヒロインのマギー・シフが……とか書いていったら、本当にキリがないので、ここで強引に打ち止め。最後にシーズン4まで通して見た中で、一番のお気に入りのシーンはS2E7終盤の「ジャックスvsストール」 ここは普通に鳥肌が立ちましたよ。セリフも完璧、演技も完璧。なにより最後に脅迫されるストールの演技が凄い。文字通り一世一代のレベル。でね、このストールってのがね、本当に憎たらしく造形された素ン晴らしい仇役でさ……って、ダメだね。本当にキリがないね。

本当に最後に一言付け加えるなら、「『SOA』を見るためだけに1000円払う」価値は間違いなくある! ってこと。これだけは、2011年以来、200本以上の海外ドラマを観ている手前が太鼓判を押します。

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。





2014年8月20日水曜日

『ゴシップガール』のチラ裏:手前の考える「あるべきS6」

このあいだ、ツタヤの新作半額クーポンを使って『ゴシップガール』のシーズン6を吹き替えで視聴しました。2月に書いたとおり、S6は違法動画サイトで「字幕なし」のモノを見ていたわけですが……。さすがに英字幕もない動画では話半分どころか、1/3くらいしかわからなかったわけで、「この場面では、具体的にどんなセリフを言っているんだ」とか「ここで表情を変えたのは、こういう局面に至ったからなんだろうけど、セリフを良く聞き取れない以上、ハッキリしたことはわからないものなぁ」という感じで見ていたわけです。

で、吹き替えで見直してみたら、ハナシの流れが面白いようにわかるわかる! 実際、ダンがセリーナと“理想のデート”をした場面は、実はダンの××で……みたいな真相については、字幕なし原語版を見ていたときには把握できていなかったですからね。

こんな感じで――字幕なし原語版をつっかえつっか見ていたときに比べて相対的に――流れるようにハナシが進む吹き替え版を見れば、「一見荒唐無稽に見えるS6だって、実は極めてロジカルでかつ緻密な脚本で支えられているのだ!」と思ったり……はしなかったです。やっぱりねぇ、無理ありすぎ。

なもんだから、心の中でツッコミを入れまくりながら最終話まで見てしまったら、「オレがジョシュ・シュワルツなら、絶対にこうするのに!」という妄想が大爆発。以下、爆発の残滓をつらつらと綴っていくことにします(実の所、チラ裏以下の代物なので、よっぽどヒマな人以外は読まないで結構です)。

●あるべきS5終了時の状況

・S:全てを失いマンハッタンを後にする。
・B:新社長に就任。Dを振りCを選ぶ。
・C:社長を解任され無一文になる。
・N:誰にも頼らず出版社の社長として生きていく。
・D:Bに振られ、Sにコケにされ激昂。UESへの復讐を決心。
・G:UESへの復讐を目指すDに誘われ共闘する。
・R:Lとの諍いが発展し離婚する。
・L:Rと離婚後、がんが再発する。

――「実はバートが生きてしました」をなかったことにして、リリーの病気が深刻な形で再発させたこと以外は、ほとんど同じ。で、この前提から、手前の考える「あるべきS6」がスタート。

●あるべきS6の骨組み

<起>

・DはUESの面々を破滅させるため、暴露本による攻撃を試みる。少しずつ効果的に攻めていくため、ヴァニティ・フェアに各章ごと掲載する段取りをつける。

・Sはポキプシーに辿り着く。UESを出る直前に預金を下ろし、これで新しい名前とIDを手に入れ、別人(=サブリナ)となっていた。Sは地元の病院で受付事務をしながら看護学校に通う日々。UESの面々から見捨てられ、恋人も父親も失ったSは、これまでの生き方を痛切に反省。市井で生きる事を考え始める。

・Cは、Bの離婚のために会社の金を流用したことを経営陣に咎められ、取締役会で社長を解任された。反撃を目指すCは、Nの媒体を使ってバス産業のネガティブキャンペーンを張る。しかし、本格的に復権を目指すためには大きな資本が必要と悟る。

・Bは会社の経営に戸惑っていた。学生時代のようなやり方では会社は回らない。しかも、新社長披露の記事を取材するのは、学生時代にいじめていたネリー。良くも悪くも正直に書かれた結果、Bの信用は失墜。会社の業績は徐々に悪化する。

・Nは出版社の独立性を保つため、祖父からの資本提供を拒絶。結果、経営面で窮地にたつ。Cの依頼によりバス産業のスキャンダルを暴き、一時的に業績が回復した結果、紙面はより通俗的なものとなり、お堅い広告主からの信用を失いつつある。

<承>

・Dは紙爆弾を投下。あわせてG、ネリーと組み、UES3人組の信用失墜を狙った情報工作を行う。具体的には、ネリーが情報収集し、Dが策略を考え、Gが実行するという形。Dは容赦せずに手を打ち、UES3人組を窮地に陥れる。しかし、彼らとRを完全に敵に回してしまった結果、ブルックリンにもUESにも戻れず、女を引っ掛けその日の宿を確保するジゴロ生活を送ることに。

・UES3人組は、自らの状況悪化の多くがDの策略あると看破。UES連合として共闘する。第一歩としてDの人格攻撃と自らの抗弁を狙って大手マスコミのインタビューに答えた。しかし、ネリーが事前に察知。これを受けてDは、先手を打って自らの失態を明らかにした記事を投下。加えて三人の資産状況が悪化していることを暴露する。これによりUES連合はますます窮地に陥る。

・その頃、Sは市井の生活に安住していた。初めての労働と対価。お金のありがたみと、市井の生活のあり方をしみじみ感じる日々。いつしか市井の生活に慣れ、“自分探し”に成功しつつあった。

・一方Dも、Sに対してだけは紙爆弾を投下しなかった。理由はUESにおらず攻撃する必要がなかったため。そんな折、Lが病状の悪化により入院。Lは相続問題を整理すべく、本格的にSを捜しはじめる。しかし、別人となったSをなかなか見つけられない。

・Nは出版社の経営悪化に歯止めを掛けるべく、Dに連載を依頼する。現在、アメリカで最も注目を浴びている連載を、ヴァニティ・フェアから引き抜くことで、多くの読者を確保して広告収入をアップすることが狙い。仇であるDの手腕を認め、恥を忍んで頼み込む。これをDは快諾した。DはNを膝下においたことで、Nに対して自分が“よそ者”ではなく“対等の男”であることを認めさせたのだった。

・NがDの軍門に下ったことにより、CとBはより密接な関係で共闘する。しかし、Nの媒体は使えず、資本のないCは有効な手が打てず、Bの策略もDとGの“本気の共闘”の前に空振りするのだった。逆転の目を出すには、バス産業の大株主であるLの協力が欠かせない。しかし、入院中のLの病状は極めて深刻で、Cへの支援ができないでいた。

・Lの持つ切り札を使うためには、LからSへの相続問題を解決する必要があった。入院中のLからSへ一部資産を生前贈与するとともに、遺言書を公開することで、Sが新たにローズ家の当主となることを内外に公示する。その後Sが、Cへバス産業の株を移譲するという形で支援する。このスキームが成立することで、Cはバス産業への復帰が叶うはずだった。こうしてCが復活すれば、Bに対して物心両面でのサポートができる。そうなればCとBは一気にDへ反撃できる目算が立つのであった。最後の望みがSにあると見たCとBは、人知を尽くしてSを捜索する。

<転>

CとBは、ポキプシーの病院で働いているSを見つける。UES復帰を求めるCとBに対して、Sはにべもなく拒絶する。SはUESに戻る気はさらさらなく、相続放棄して弟に全て譲る考えだった。もし、弟に相続されてしまえば、Cが支援を受ける可能性はゼロ。というのも、弟は財産を全て同性愛擁護団体に寄付する決心をしていたから。弟は、自分が音頭をとってJを追い出したものの、そのことについて猛烈に後悔しており、「Jの人格を変えたUES」のことを嫌悪しているのだった。

・BはSを説得する。「私達は家族同然の中でしょ? 家族を助けると思ってUESに戻ってきて」 この泣き落としに折れ、SはUESに復帰する。

・UESの生活にすぐ馴染むS。確かに市井の生活には、生の実感が感じられた。労働の価値も身に染みた。しかし、自分の本質はローズ家の後継者であり、世界屈指の富豪であり、誰もが注目するセレブなのである――ということを改めて実感する。

・Sは、市井の生活では、毎日の仕事と看護師になるための勉強に必死で、男のことを一切考えずにいられた。しかし、UESの生活に慣れ、時間に余裕が出てくると、男のことを考えずにいられなくなる。ただし、男といっても思い浮かぶのはDのことだけ。ただし、Dに対しては愛憎半ばした複雑な気持ちを抱いていた。

・一方Dは、ジゴロ生活にむなしさを感じていた。恋人と父とUESの友人を失い、心を許せる人は誰一人いない。共闘するGとネリーは、利害関係が一致しているだけで友人ではない。加えて一緒に寝る女たちは、Dの金と名声が目当てであり、打ち解けた関係に発展するはずもなかった。こうして復讐に身をやつし、砂を噛むような日々を送るなか、Dは、これまでの人生で最も情熱的に生きたのはBとの生活だったが、最も幸せだったのはSとの生活であったと気づく。

・RとLが別れた以上、二人を分かつ障害はない。加えてSが市井の生活を知ったことで、別れの真因であった価値観の違いも克服されつつあった。SはUES流の生き方がノーマルではないことを、初めて知ったのであった。

・当初はわだかまりのあった二人だったが、Dが“戦略的アプローチ”をかけたことで、二人は急接近する。Dの“戦略的アプローチ”は、UESに復帰したSに対する紙爆弾のための仕込み。「心に隙間のあるSは、ちょっとしたアプローチで股を開く軽薄な女」という真実を書くためにやったことだった。

・Dの復讐は、UESの面々から“よそ者”と蔑まれず、憎まれても“対等の男”であると思い知らせることで完遂する。既にNは軍門に下り、CとBは陥落寸前。残るはSだった。Sを落とせば復讐を遂げられる。すでに仕込みは大成功し、あとは記事を載せるだけだった。しかし、罠に掛けたつもりが本気になってしまい、DはSに改めて恋をする。

・SはUESに復帰し、Dとの関係を復活させるなかで相続問題を整理。ローズ家の新当主となった。これによりバス産業の株式も引継ぎ、Cに対する支援ができるようになった。Cを支援することで、CはBを助け、これによりCとBは窮地を脱することができる。

・しかし、こうなってしまってはDの復讐は失敗してしまう。復讐を完遂するためには、二つの方法が考えられる。一つは、Sに対して紙爆弾を投下して、Sの信用を失墜させつつ、G、ネリーとの共闘によりCとBへ最後の策略をしかけること。いま一つは、Sと一緒に市井の人に戻り、UESを脱出すること。Dはより穏健な方法にして、二人の関係を永続化させる手を打つことにする。すなわち「財産もUESも捨てて、二人でローマに行く」という一手。

・DがSをローマに連れて行き、一緒に暮らすことができれば、Dは「Nを膝下におき」「CとBを無位無官にさせ」「SをUESの住人から市井の人に落とす」という形で、UESの住人と対等の関係になることができ、復讐を完遂できる。しかし、Sがローマ行きに賛同しなければ、SはCとBを支援し、二人は復活してしまう。

・Sはローマ行きを逡巡する。Dとの愛を取るか、Bとの友情を取るか。UESのノーマルではない生活を取るか、市井の実のある生活を取るか。これこそがSが大人になるために受ける最後の洗礼であり、選択なのであった。

<結>

・Lの後継者として様々なパーティの主役を張るS。UESの女王としての階梯を上っていくうちに、UESの魅力に改めて取り憑かれるS。一方Dは、改めてSをローマに誘う。

・Sは悩みに悩んだ結果、ローマ行きを断わる。失意にまみれたD。その手には紙爆弾の記事とラブレターの記事があった。紙爆弾を出せば、息を吹き返したSを貶め、CとBに止めをさせる。しかし、Sとの関係は完全に断絶する。Sを愛していたが、UESの女王となったSと交際を続けても、遠からず価値観の違いにより別れることは必定。結局Dは、復讐を諦めSとの愛を選んだ。連載は中止。ラブレター記事をSのポストに入れ、静かにローマへと旅立っていった。

・Sはラブレター記事を読み、自分がかけがえのないものを失ったことに気づく。全てを捨ててDを追い、空港まで行くが、すでにDは旅立っていった。Sは自分の失ったものの大きさを思い知る。二度と手に入らない愛。Sは自分の青春時代が終わったことを悟った。UESで最も権威のある委員会の新委員長に推戴されるS。Sは愛を代償にして、祖母、母と同じように、新たなUESの女王となったのであった。そしてバス産業の株式をCに譲渡し、CとBを救った。

●あるべきS6のエピローグ

20年後――

・Nはメディア王として名を馳せた後、NY市長となった。現在は二期目を目指すか、上院議員を目指すか、その去就に注目が集まっていた。

・Cはエンパイアホテル拠点に世界的ホテルチェーンを創設。新たな帝国を構築していた。Bは妻として支えつつ、アパレル会社を経営。2人の間には1人息子のヘンリーがいた。

・Dは、Sとの関係をベースとした本格恋愛小説を上梓。この本が評価された結果、暴露本作家からベストセラー小説家へとランクアップ。ローマに住み続け、女をとっかえひっかえしながら旺盛な作家活動を行っていた。

・SはUESの女王として君臨。3度の結婚を経て独身となっていた。そんな折、Sの住むアパートメントの委員会に入会希望者が訪れる。他の委員は入会に反対。曰く「マドンナも入会させなかったのに、新参の成金などを入れるのは論外」 しかし、名簿を見たSは他の委員を制して「まずは話を訊いてみましょう」と促す。入室してきたのはD。視線を交わし微笑みあう二人。

――完

というわけでGG関連のエントリはこれで完全に打ち止め。しっかし、今年始めに見始めたときは、ここまでズブズブにハマるとは思ってもみなかった。気づいたら『マッドメン』よりも多くのエントリを書いてるんだものなぁ。ドラマとしての完成度と面白さってのは全く別物ってことなのかもね。

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。

2014年7月15日火曜日

アメリカや中共のプロパーでも工作員でもない人の説く「2014年の東アジア情勢」を知ろう

◆タイトル:『兵頭二十八の防衛白書2014』

◆目次

●Ⅰ部――わが国を取り巻く国際情勢
・第1章:米国 軍事予算大幅カットの趨勢
・第2章:中国 「軍による国の支配」と「間接侵略」
・第3章:ロシア 頼れるのは特殊部隊のみ
・第4章:朝鮮半島 北朝鮮をめぐる9つの疑問

●Ⅱ部――わが国の防衛施策の問題点
・第1章:憲法と集団的自衛権
・第2章:核武装でもMD(ミサイル防衛)でもなく
・第3章:エネルギー安全保障環境の激変にいかに対処するか
・第4章:空の安全をいかにして守るか
・第5章:中国の間接侵略にいかに対処するか

兵頭二十八師の新刊『兵頭二十八の防衛白書2014』(草思社刊)を読みました。横組みのペーパーバック風で、いかにも“最新情報をいち早くまとめました”的なスタイルの新刊は、軍師が後記で書いている通り「『日本人が知らない軍事学の常識』の最新版」です。以下、後記をそのまま引用します。

「『兵頭二十八の防衛白書2014』は、年刊としてシリーズ化され、これから毎年7月に(あっ、防衛省さんの『』日本の防衛――防衛白書』と偶然同じタイミングですね)最新版をリリースして参る予定です。草思社さんの英断に拍手!」
「思えば1995年刊の『日本の防衛力再考』(銀河出版)いらい、わたしは書籍や雑誌やブログや講演等を通じ、自衛隊や政府の安全保障セクションにいろいろな注文をつけてきたものです。そして昨2013年時点におけるその到達点は、この兵頭版防衛白書の「ゼロ号」だとも呼べる「『日本人が知らない軍事学の常識』にまとめておきました。「第1号」である2014年版の本書と併せ、ぜひそちらもお読みになってください。これまで国防の話になどご興味の無かった皆さんが、いきなり深い理解に到達してしまえるのです」(227頁)

目次にある通り、書かれていること自体は『日本人が知らない軍事学の常識』がベースですが、その内容はといえば、最新兵器事情や日々刻々と変わりつつある東アジア情勢への対応策がメイン。いってみれば「いまはなきMIL短blogで書かれていた情報を精製し、面白いところだけを抽出して、軍師独自の論説も大々的に上乗せしたモノ」といっていいでしょう。なので、内容面で既刊と丸被りしているところは存外少ないです。

20年前に比べて激変し、かつ日々変わりつつある東アジア情勢を巡っては、昨今大人気の“嫌韓本”を筆頭に、数多くの書籍や論説が出ています。著者は学者や元官僚、政治家を始めとするプロ中のプロです。が、これらの書籍、論説の90%以上はクズといっていいでしょう。

えっ? ド素人のお前が偉そうに何を言うんだって!?

いえね、ド素人でもですね、「アメリカのプロパー」や「中共の宣伝員」くらいの見分けはつきますからね。

えっ? どうやって見分けているのかって!?

そりゃまぁいろいろとコツはあるんですが、2014年7月現在時点において一番簡単な見分け方は――

●オスプレイ導入を超積極的に主張する人=アメリカのプロパー
●米中合作(=G2論。太平洋を米中で分け合い、支配する云々)を主張する人=中共の宣伝員

――ってとこですかね。

もちろん上記の論を、心底本気で主張しているプロパーでも宣伝員でもない人も少なからず存在します。が、そういう人は多分、アタマの造りが粗雑な手前よりも残念な人なんでしょう(上記の論がいかに誤っているかについては、新刊に余すところなく書かれています)。

で、これらのプロパーや工作員の言葉なんてものは、所詮、ポジショントークでしかないんですね。加えて、例えそこに一片の真実があったとしても、専門家でもなんでもない手前みたいな一般人にしてもれば、プロパガンダの洪水から、一々真実を選り分ける手間なんてかけてられないわけです。

その点、軍師はアメリカのプロパーでもなければ、中共の宣伝員でもないことはハッキリしていますからね。実際、日本国憲法廃棄論を主張(=サンフランシスコ講和条約への公然たる挑戦)している時点で、アメリカをハッキリ敵に回しつつ、中共のことを儒教国家(新刊では「朱子学は、宗教ではなく、専制的当地集団に都合のよい反道徳体系である」(113頁)と定義)として、その反近代性を徹底的に指弾しているんですから。これはもう、どう見たってプロパーや宣伝員、工作員じゃないことだけは間違いないってことです。

なので、東アジア情勢について基本的なことのみならず、より深い事情を知りたいのであれば、まずは軍師の論を読むのが一番! と、声を大にして主張したい。

……なんてことを書いているのには理由があってですね、実は昨今の日朝接近をタネに軍師絡みのエントリを書こうと思っていたんですが、新刊を読んで断念。改めて軍師の凄みを実感したからですよ。

というのも手前は、日朝接近について漠然と、「もはや韓国が敵であることは、国民の大多数が承知しているのだから、対抗上、韓国の主敵と気脈を通じるためにやっていることかなァ」「あ、あと、本当に崩壊したら米中にとってもやっかいだから、延命措置のため金を払うことをアメリカから要請されたのかなァ」くらいに考えていたんですよ。で、「そういえば軍師が7年前に北朝鮮に学べ(=韓国は敵であり、歴史的に友好関係を結べる相手ではない)ってテーマで本だしてたじゃん!」ということを思い出し、この辺のハナシについてのエントリを書こうとぼんやり考えていたのですが……。

軍師に言わせると、「北朝鮮は国としてもう終わりました」(3頁)ってことですからね。実際、その理由も一々説得力のあるハナシ――該当部分の中見出しは、・「核武装」の疑問、・核物質生産力の疑問、・粛清文化の疑問、・中共の態度の疑問、・口先挑発の疑問、・統一願望の疑問、・闇ビジネスの疑問、・半島からのエクソダスの疑問、・無人機の疑問――で、つまるところ軍師が7年前に披露した説をベースに四の五の書いたところで、最新事情を縷々述べた新刊が出た以上、↑のようなエントリなんて、アウトプットした瞬間に賞味期限切れなわけですよ。

というわけで、「なぜいま、日朝接近が行なわれているのか?」とか「北朝鮮、てか金正恩体制はどうやって崩壊するか?」みたいなハナシを知りたい人は、新刊を買うか、新刊に併せて上梓される論文(『Voice』9月号)を立ち読みするかしてください。

ともあれ手前は、韓国は仏像を返還すべきであると思う。